第四十三.五話 (とあるビル)

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第四十三.五話 (とあるビル)

 少女は孤児だった。物心つく前に父と母は交通事故で死んだ。……と中学生になった時に児童養護施設の職員に聞かされていた。  傍から見れば可哀そうな子だが、養護施設で暮らしていた少女は自分が不幸だとは思っていなかった。  ドラマや映画――物語の中で描かれるように孤児院での生活は暴力や理不尽に襲われることもあったが、それだけという訳でもではない。心優しい友人や大人と接する時間もあったし幸せというものを感じたこともある。  同じように孤児院で暮らす子供には生活に絶望する者や、それ故に悪の道に進む者もいたが少女はそうならなかった。結局、どこにどんな運命でこの世界に生まれてこようが人間はどう生きるかなのだ。  ある日、少女を含む孤児院で暮らす子供のほとんどが半ば強制的に施設から出て行くように命じられた。突然大量に里親の手続きが完了でもしたのかと孤児院の子供達は思ったが、どうやらそうではないらしかった。生活に不満がない子供の中には抵抗した者もいたが子供の力でどうにかなるものではなかった。  何か不気味で大きな力が裏で働いている……その時、少女は孤児院で働く職員の大人たちを見てそう思った。  順番に知らない大人の車に乗せられ、1人ずつ移動させられる子供達。少女も孤児院の人数が半分ぐらいになった頃に車に乗せられた。  着いた場所は山の中の大きなビルだった。何の説明もないままビルの中に連れていかれた少女はそこで檻の中に入れられた。少女は荷物を取られる前に上手く服の中に潜ませていた宝物のテノールリコーダーを粗悪なパイプベッドに隠してから、これからの人生に怯えて泣いた。  周りにも檻の中に入れられた子供達……数か月経てば自分たちがここでどういう存在なのか分かった。実験体。それも、たぶん良くない研究の。
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