第四十三.五話 (とあるビル)

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 しかし、実験体にも幾分か自由があった。檻の扉が開けられて、1フロア内だけであるが開放される時間が与えられていた。その時間の始まりと終わりを告げるのは大きな鐘の音――その音が鳴れば外に出られて、もう一度鳴った時にすぐに檻の中へ戻らなければ手と足に付けられた器具から電流が走って、その後どこかへ連れていかれて帰ってこなくなる。  けれど確かに自由な時間だった。手と足につけられた器具も自分の力で取り外せるような作りになっていたのだ。フロア内にある部屋には食事や遊び道具も用意されていた。そして監視カメラも。  少女が最も仲良くなった賢い少年は、その時間も何かしらの実験であると推測していた。子供たちが自由な時間に何をするのか見てデータを取っているのだと少年は言った。自分たちに自由な時間を与えるような実験で最終的にどうしたいのかは分からない――何しろ不定期で檻から連れ出されて別の階で行われる実験は奇妙なものばかりだった。  頭に謎の装置を付けて行われる実験は、心理テストのようなものに回答させられたり、トカゲが虫を捕食するところを何度も見せられたり、たまに肉体的に負荷がかかる運動もさせられた。けれど大人に従っていれば痛い思いをすることはなかった。 「ただ自分達を見て楽しんでいるのかもしれない。少なくともこの研究を始めた理由に全く楽しむという感情がないとは思えない」  これも、少女が最も仲良くなった少年の言葉だった。  自由な時間は大人にとってリスクになるはず――それを敢えて与えているのは――。
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