第四十三.五話 (とあるビル)

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 少女は少年と過ごすうちに恋をするという感情を知った。少年が見つけた監視カメラのない場所で少女は自慢の笛の音色を披露した。自作の歌を少年が素敵だと言っていつも聞いてくれた。とても幸せだった。  しかし、隠していた笛が大人に見つかった。その時、自分が自分でなくなるほどの怒りが少女を満たした。我を忘れて大人を撃退して、我に返ると自分が怖かった。少し経ってから戻ってきた大人は笛の所持を許した。これも敢えて与えている自由か――  他に少女の少年との幸せな思い出は実験のせいで変化した髪色を気味悪がらず褒めてくれたこと。少年は金色になった髪を「かわいい」と言ってくれて、秘密の抜け道を通り、実験の記録に使うポラロイドカメラで少女の写真を撮った。  秘密の抜け道――そう、少女も少年もそのほかの子供達もおかしな生活から脱出を望んでいた。自由な時間があれば集団脱走の打ち合わせもできた。  脱走には様々な障害があった。裏切りや大人の姑息な妨害、想定外のピンチ。集団脱走を決行して、結局外に出られたのは少女ただ一人だけだった。  しかし、一人出られただけで子供たちの勝利。出られた一人が警察に助けを求めれば解決する。少女もそう思っていた。  裸足で山を下りて、真っ当な警察官の一人に無事保護された少女。偶然通りかかった警察官に出会えて、恐怖と安心の振れ幅からその場で気を失ってしまった少女は次の日、交番内にある部屋で目覚めた。  そして、事情の聞き取りを始めた警察官を殺した。  研究は既に手遅れな段階まで進んでいたのだ。施設の外の人間を見ると殺したくなって仕方がなかった。  気が動転してしまった少女は誰も傷つけないように「とあるビル」に戻った。怖くって、とにかく少年に会いたかった。  ビルの入り口に辿り着くと同時に後ろに天使の羽のマークがデザインされた車が発進した。ビルに入ると、そこはもう自分が知る施設ではなかった。荒れに荒れていて黒い人間に支配されていた。  少女は生き残っていた仲間の一人と合流できて、自分を追って少年がビルから脱出したことを知った。  少女はもう一度少年に会うことを誓ったが、血だらけになった後、志半ばで黒い人間に殺された。
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