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第四十語話 場で
部屋の出入り口から覗き見するような体勢から衰えた腰をゆっくり部屋の中に入れる老人、感情が読み取れない呆けた表情をしていて、まるでボケているみたいだった。
「なぜ先の部屋に人がいることが分かった?」
――何をしに来たのかと思ったが、どうやらナオキの言葉に疑問を持ったらしい。
「なぜそれを気にするんですか?」
当然快く教えようとは思えなかった。この場で最もこの空間について詳しいであろうくせに人の質問には答えない奴にどうして答えてやらねばならない。
ナオキの言葉を聞いた老人は開いた口を塞ぎ、下唇を持ち上げてから、はいそうですかといった具合に何も反論せずに廊下のほうへ帰って行こうとした――
「ちょっとゆっくり話しませんか?」
背中を向けた老人を呼び止めてナオキが言った。動きを止めた老人から返事は無かったがその提案は受け入れられたみたいで、また呆けた表情になりナオキをじっと見たままテーブルのイスに腰を下ろす。
ユミコにも少し離れてもらって、奇妙な空間に閉じ込められている三人のディスカッションが始まった。
「えー……っと……お爺さん。あなたは本当は何者なんですか」
ナオキは何から話していいか迷った。何しろ聞きたいことがたくさんあるのだ。
「それはもう話した。私は嘘はついてないし、私が知っていることで君に教えるべきことはすべて教えた」
「教えるべきことって何ですか?ドアの先の空間について何か知っているなら教えてくださいよ。命がかかってるんです」
「君もいくつか入ったならもうどういう空間なのか分かっただろう。私が知っていることはもう全部知っているはずだ」
相変わらずのスタンスに怒りを通り越して呆れる。感情的に声を荒げる気にもならなかった。
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