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望みの実り
少し用があって、渋谷に来ている。
駅で、二人の少女を見かけた。
「それじゃダメだよ、もっと胸を張って」
「は、はひぃ⋯⋯」
「どしたの、埼京、山手」
「あ、高崎」
「た、高崎さん」
いつもよりもおどおど強めの埼京を見るに、山手が何かしたのだろうか。
「公式の場ではもう少しシャキッとした方がいいと思うんだよね。でもどうしよっかなってさ」
「うう」
なるほど。山手なりの気遣いのようだ。
「高崎、どうしたらいいと思う?」
「そうだなあ」
「あう」
埼京は、自己評価がとても低い。⋯いや、それが直接的な原因ではないだろう。
不安だ。
誰かに怒られたり、貶されたりすることに怯えているのが、普段の態度に現れているのかもしれない。
彼女の出生はどのような感じだったろうか⋯⋯ああ、そういえば。
「埼京、自分がどうして生まれたか、わかる?」
「どうして⋯⋯」
埼京は、少し悩んだ後、
「必要な路線、だったから」
「そう。あなたが必要だったから、生まれたの」
「で、でも、騒音とか色々、ご迷惑をおかけして⋯⋯やめろという声もありました」
「そうだね。ただ、あなたはそれを乗り越えて生まれた。それほどまでに望まれた子なんだ。人々が頑張って考えて、どうしたらより良い路線になるか考えてくれたんだよ。その想いを大切にしなきゃ。素敵じゃない、強い願いを込められて生まれただなんて」
「私⋯⋯」
「うん」
「もっと、私を生んでくれた方々の為に⋯⋯」
「そう。誠実なのはあなたのいい所だよ」
「は、はわわ⋯⋯!」
初めて見る素ではわはわ言う少女は、照れを隠しきれていない。
「高崎がここまでいうんだしさ、もう少し自信持ちなってば」
「持ちます!私、めげずに頑張ります!」
「よろしい。あなたは山手と違って素直だし、努力家だ。しっかりやるんだよ」
「え」
「はい!」
山手が本当は頑張り屋さんなのは、知っている。
まあ、言葉のあやというか、そんな感じだ。
さて、ひと仕事終えたところで、私はこれから湘南新宿を探さなければならないのだが⋯⋯。
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