卒業は別れの言葉だった

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卒業は別れの言葉だった

教室の窓にもたれかかっているとカーテンからこぼれる風が俺の体をを隠したり現したりする。 桜の蕾は少し硬いけど、風はずいぶん優しくなった。 今日は3回目の卒業式の予行演習。今日が最後の予行演習。 廊下から、勢いのいい足音が聞こえてきた。 「あーこんな所にいた。拓、もうみんな講堂に集まり始めてるぞ」 「瑞希。いま、行くところだったよ」 俺は窓から離れる。 「あー!拓。ゴミついてる、だっせ」 そういって瑞希は俺の髪に手を伸ばした。 「ちょっと、目をつぶっていろよ」 「うん。わかった」 目を閉じてあごを瑞希の方に上げる。 その時唇にかすかな圧力を感じた。暖かかった。 「よし。取れた。早く行こう遅刻しちまう」 瑞希は俺の髪を直して満足げだ。くるりと背を向けて俺の前を歩いていく。 唇に当たった柔らかさは何だったのだろうか。 「ははは。まさかね」 「どうした拓?」 「いや何でもないよ。急ごうか」 俺たちは足早に講堂に向かう。 卒業式の予行演習は今日で終わり。 明日は卒業式当日。 きっともう会えない。 瑞希は拳を硬く握りしめる。 この気持ちは拓に知られてはいけない。 明日は卒業式。 そうしたら、もう会えなくなる。 目が潤んでいるのがバレないように拓は歯を食いしばる。 この気持ちは瑞希に気づかれてはいけない。 二人は笑顔で足早に講堂に向かう。 その先に待っているのが別れだと知ったうえで。
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