英雄アダム・ロージア

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英雄アダム・ロージア

英雄アダム・ロージア。彼はロージアン帝国4代皇帝アナン・ロージアと王妃セルルの長男として産まれた。 アダムが産まれて間もなく、ローズ山に住む戦の神ビシャが2人の前に現れて、アナンにこう告げたのだった。 「ロージアン皇帝アナンよ。お主の息子アダムは近い未来に姿を現す邪悪な魔王を倒し、この世界を救う英雄となるだろう」 ビシャはその証として、赤子のアダムに聖剣を与えた。それが後に魔王サタン・ハザムに止めを刺す、聖剣エクスリオンであった。 神に見守られつつ、父の期待と母の愛を一身に受けた彼はそれに答えるかのように強靭で逞しく、知略に長けた少年に育った。 アダムが10歳となった年。アナン皇帝は大陸全土に平和と繁栄をもたらそうと諸外国を平定しつつ、悪の巣窟と言われたサタンの生誕地、ゾゾ国に侵攻した。 しかしゾゾ国は、連戦連勝のロージアン帝国を海戦で難なく撃ち破ってしまう。 懲りずに何度も戦いを挑むロージアン帝国であったが、ある男の出現によって大敗を喫することとなった。 その人物は獰猛な戦いぶりと残虐な振る舞いから、戦場の怪物と恐れられたゾゾ国将軍ザザ・ハザムであった。 ザザが海戦で殺戮を繰り返し続ける中、彼の妻である魔女のサラ・ハザムが男子が出産する。その子こそ、後世に魔王と称されるサタン・ハザムであった。 彼は産まれた当初、虎のような産声を上げ、背中には漆黒の羽根が生えていたことから、まさに怪物と謳われたザザに相応しい赤子だった。 父親のザザは彼を最強の戦士に育てようと、母乳を飲ませずに獣の生き血を飲ませて育てた。 それによってサタンの眼光は狼のように鋭く、歯には牙が生えて血と肉を好むような少年に育った。 ザザがサタンを鍛え続けること14年。その年、敗戦を繰り返していたロージアン帝国が、正義の名の下に再び大軍を引き連れてゾゾ国へ進行した。 開戦当初、ロージアン帝国参謀総長グロッソ・ムニエの部隊を撃ち破ったゾゾ国は、戦を優位に進めた。しかし、幼少期より神の加護を得て育った24歳の青年アダム・ロージアが戦争に加わっていたことにより、形勢は逆転する。 彼が聖剣を振り翳すと、ゾゾ国の命綱であった船団が一斉にして燃え上がり、嵐を巻き起こした。 逃げ場を失ったゾゾの兵士達は地上戦でロージアンの部隊と激突したが、アダムが放つ光にゾゾの兵士は逃げ惑うばかりだった。 その間にアダムは機転を利かせて、悪の根源であったゾゾ王を討ち取った。 王を失ったことによって勝敗は決したかに見えたが、尚も戦い続けた男達がいた。それが、ザザ・ハザムとその息子サタンであった。 彼等は戦の最中、敵兵以外にも逃亡を謀った兵士と民を惨殺した。その中にはサタンの母と妹も含まれていたのだった。 その愚行から仲間からも疎まれた親子は孤立無援となり、逃亡中にザザが深手を負う。 助けを求める父に対してサタンがとった行動は、あまりにも残忍だった。歩くことが困難なザザを足手まといだと考えた彼は、こともあろうに殺害したのだ。 そして、ザザの首と引き替えにして自分の身の保障をアダム・ロージアに進言したのである。しかし、そんなことが許されるはずがない。 逃げ場を失ったサタンは母親譲りの魔術を使ってアダムの前に雷を落とし、忽然と消え去ったのだった。 ゾゾ国滅亡から10年後。 ロージアン帝国は大陸全土をほぼ支柱に納めた。ロージアン帝国4代皇帝アナンが死すと、息子のアダム・ロージアが第5代ロージアン皇帝として後を継いだ。 彼が真っ先に行ったのは軍事面の強化だった。統治下にある領地に軍隊を派遣して各地に残る反乱軍を鎮圧し、これ以上の争いが起きぬようにと民から武器を回収した。 平和になった世を人々は大いに喜び、群衆はアダム・ロージアを神と讃え始めた。 その一方で、平和な世を呪う者が出現する。彼は欲望のままに街や村を焼き払い、逆らう者は容赦なく殺していく。それ等の愚行を行ったのは、ゾゾ国海戦後に姿を眩ましたサタン・ハザムであった。 サタンは魔の象徴であった羊の頭を催した黒い鎧を身に纏い、自分こそがこの世界の神だと言い放ちながら彼を崇拝する万を越す民と、仲間を従えて次々とアダムの領土を侵していった。 その度に男、女、子供、老人までも拐って死ぬまで奴隷として扱い、人々がいなくなった街や村を全て焼き払ったのだった。 その所業はまさに悪魔、魔王と言われる由縁となった。 そのようなことが1年続いたのち、サタンがついにアダムのいる都市、ロージアにまで迫った。 アダムは民を守るために、ついに自ら軍を指揮してサタン討伐に打って出る。 2人が対峙したのはロージアン帝国から西に位置する、神の丘と言われたローズ山の麓だった。 アダムの兵は100万、片やサタンの兵は民を合わせて10万程度であった。 戦闘は半日で決着の様子を見せる。ロージアン兵士はサタンが引き連れる魔兵を圧倒し、サタンは命からがらローズ山に逃げ込んだ。 そこで僅かに残った配下と共に、話し合いが行われた。サタンは、 「これ以上の戦いは無意味だ。オレの命を差し出して、皆の命を救ってもらおう」 と言って、たった1人で交渉に挑んだ。 真夜中、和平交渉のためにサタンがアダムの前に現れ、 「アダム様、お願いします。配下全員の命と今ある金銀と引き替えに、オレの命だけは助けて下さい」 と仲間を裏切り、命乞いをしたのだった。無論、こんな非道なことは正義の代名詞とされるアダムが受け入れるはずがない。 「貴方の残虐非道な行いを、僕は許すことはできない。償いとして自害するか、もしくは、僕が貴方の命を終わらせてあげましょう」 慈悲深いアダムに対してサタンがとった行動は、あまりにも身勝手なものだった。 逃げ場を失い、身の危険を感じたサタンはアダムを抹殺しようと、牙を剥き出して獣のように襲いかかったのだ。 その時、アダムの守り神であるビシャが現れて、サタンに向けて光を放った。 「うあああ、目が!目が!」 眼球が焼けたサタンは痛みからのたうち回り、暴れだした。その隙をついて、 「グサッ!」 と一突き、アダムが聖剣をサタンの喉に突き刺したのだった。同時に、サタンの首からは黒い血が吹き出して、アダムの全身を真っ黒に覆う。 「グオオオオオオ・・・・・・」 鼓膜を切り裂くようなうめき声を上げる魔王サタンは、全身から黒い炎を放ちながら倒れて炭と化した。それなのに、 「ドクン、ドクン・・・」 とサタンの心臓の鼓動が聴こえるのだった。アダムは困り果て、ロージアンの守護神ビシャに願い出て、神の御告げを賜ることにした。 「我が父、ビシャ様。サタンは不死身です。どうしたら、彼に安らかな死を与えてあげれるでしょうか」 ビシャは答える。 「不老不死のサタン・ハザムをローズ山の地中深くに埋めよ。さすれば、我が力によって、魔王を封印しよう」 アダムは御告げ通りにローズ山の麓にサタンを生き埋めにし、ビシャの神力によって封印した。 こうして世界を魔の手から救ったアダム・ロージアは英雄と称えられ、この世界を救った神となった。 心優しいアダムは魔術によって操られていたサタンの悪名高き5人の下僕と従軍していた民を許し、土地を与えてロージアン帝国に迎え入れたのだった。 決戦から7日後。 アダムはサタンの血の呪いによって倒れ、そのまま命が尽きてしまうが、彼が残した功績と伝説は終わることなく、現代にまで語り継がれることとなった。 「ざっとであるが、これが世にも有名な英雄アダムの物語だ」 私は10歳の頃に読んだ絵本や小説、伝記などを思い出しながら頷いた。 「うむ、ここからが本題だ。これは創作された物語というのは、先に話したな」 「はい」 「では今から話す物語は、アダム・ロージアについてでなく、サリュー・ハザムについてだ」 「サリュー?」 「そうだ。サリュー・ハザム。サタンの本来の名だ」 「ちょっと待って下さい。サタン・ハザムの本名がサリューってことですか?僕はこの英雄伝説の関連本をたくさん読みましたが、そんなことはどこにも書かれていませんでしたよ」 「それはそうだろう。そんな記述が出てきたら、今まで語り継がれたアダム・ロージアの英雄説が全て吹っ飛ぶからな。それは歴史を全て書き換えるのに、等しいだろうよ」 老人の話をグラスを拭きながら聞いていたマスターは、 「この街の観光名所も、痛手を負うでしょうね」 と涼しげに言ったあと、老人は厳しい表情を浮かべながら口を開く。 「だがわしは、サリュー・ハザムとサルグ・ガルダンとその仲間達のためにも、そして何よりも、自分自身の間違いを正すために、この発見された本来の英雄伝説を公表せねばと躍起になったが、全て揉み消されたよ」 「どうしてですか?」 「マスターが言った通りさ。アダムが英雄でなくなれば、経済的にも大きな打撃を受けるからな」 老人の言うことに私は賛同した。老人はそれを悟った様子で笑う。 「まあ、知るべき人間が知っていれば良いことじゃ。さあ、話を続けよう。これから語る物語は現代の言語に翻訳して語るから、聞き苦しい所あるだろうが、勘弁してほしい」 「はい」 私が返事をすると老人は頷き、サリュー・ハザムについて語りだした。
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