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第八話 スガシカオ
うれしいような、うれしくないような……。
僕は、とんでもないものを受け取ってしまった。憧れの赤井さんから、と、と、とんでもないものをッ!
清楚で真面目な赤井さんが、大胆にも、真っ赤なTバックを履いているということにもビックリだったが、ましてや、それを僕に手渡しちゃうなんて……。
僕は、帰宅電車の中、長イスに座った。膝の上で、何とな~く生温かく感じるカバンを、悶々と抱えながら、ゆらり、ゆらり、揺られていた。
このカバンの中には、今、赤井さんの赤いTバックが入っているッ!
そんなものを、僕に手渡してしまう赤井さんって、実は、変態なのだろうか?! いやいや、『……なのだろうか?!』、じゃなくて~、変態じゃないか!! いや、ド変態じゃないか!!
で、そんなものを受け取ってしまった僕も、やっぱり、ド変態になってしまうんじゃないか?!
だいたい、こんなものを受け取って、どうすんだよ?
履くのか?
……って、いやいやいやいや~、『う~ん、Just fit!』……って、ただの変態じゃん!
じゃあ、被るのか?
……って、いやいやいやいや~、被ってどうすんだよ? マスクみたいに、顔面に被って、『仮面ライダー!』とか『スパイダーマン!』とかってするのか?! それって、もう、何もかもに開き直っちゃったオッサンじゃん! 変態オヤジの宴会芸じゃん! 僕、まだ、高一だよ! 被るには、まだ、早ぇ~よ! ……って、将来、被るのかよ!
で、この恋。
これから、どちらへ向かうんだ?
僕の心が揺れていた……。
家に着いた。
ドキドキッ、ドキドキッ……、僕は、何だかよく分からない、今の、このとても変態的な状況に、どうしたらいいのか、ひたすら、ドキドキしていた。
とにかく、落ち着こう。一旦、落ち着こう。
僕は、洗面所に向かい、手洗い・うがいをし、歯も磨いて、顔も洗った。
ー パンパンッ! ー
両手で顔面をひっぱたき、何だかよく分からないが、気合いを入れてみた。
冷蔵庫を開けて、サッと扉のトマトジュースを取り出して、閉めた。大きめのグラスに一杯、真っ赤なトマトジュースを注いだ。それを飲みながら、もう一度、冷蔵庫を開けると、
「んっ?」
側面に、『産地直送』、と書かれた箱が入っていた。
箱ごと取り出して、テーブルに置くと、箱のフタの上に、A4サイズのコピー用紙が、テープでピッと貼ってあり、
『あなたは何色がお好き?』
と、黒のマジックで大きく書かれていた。母の字だ。
その紙を指でつまんで、ちょっと持ち上げると、箱のフタには『産地直送・桃』の印字。で、よく見ると、『桃』の印字の横に、黒のマジックで、小さく『尻』と書いてある。妹の字だ。
相も変わらず、イタズラ好きの母娘だな~。
箱を開けると、とっても形のいい、セクシーで美味しそうな、"THE 桃尻"、と言わんばかりの立派な桃が六個入っていた。
所謂、『尻の割れ目』は、キチンと全部、こちらに向けてある。
そして、性懲りもなく、色画用紙で丁寧に作られたTバックのおパンティを、その一つ一つに履かせてあるのだ。マメな母娘だぜ。
黒、白、赤、水色、グレー、ベージュ……。絶妙な色のチョイス。
どうせ、何色を食べたって、
「へぇ~……、そんな色のパンティが好きなんだぁ~……。へぇ~……。あ~、いやらしいッ!」
なんて、横目でニタニタと、軽蔑の眼差しで、父と僕は、母と妹にスケベ扱いされるのだろう。
だったら、赤のおパンティをチョイスして、タイムリーヒット、打ってやろうじゃね~か!
迷わず、食べた。
あれこれ思わず、いや、あれこれ思いながら、赤のおパンティ桃尻を……、じゃなくて、桃を食べた。
洗い物を済ませ、ホッと、一息。
僕は、カバンを持って、自分の部屋に向かった。
幸い、今、両親はまだ仕事から帰って来ていない。妹も中学の部活か友達ん家で、留守ッ!
今だッ! 今しかないッ! 赤井さんから手渡された、この変態的な封筒を開けるタイミングはッ!
で、その後、どこに隠しておこうか? このヤバイものを……。
今さら、あれこれ考えたってしょうがない! 僕は、いざッ! 封筒にハサミを入れた!
ー ドッ、ドンッ……、ドッ、ドンッ…… ー
地響きしそうなぐらい、僕の心臓は、脈打っていた。
僕は、目を閉じて、封筒の中に右手を突っ込んだ。
ー カシャカシャ…… ー
紙の手触り。
布の手触り……、と思って突っ込んだ右手が、いざ、掴んだヤバイものは、紙の手触りだった。
僕は、目を開けて、封筒から取り出した。
ヤバイものは、丁寧に、真っ赤な包装紙に包まれていた。
僕は、丁寧に、テープを剥がして、包装紙を開けた。
すると、中から、赤井さん愛用の、真っ赤なTバック?!
えっ?!
いやいや、赤井さん愛飲の、真っ赤なTea Bag! 『Apple Tea』と書かれた、アップルティーのティーバッグやないか~いッ!
「あーーーッ、騙された~~~ッ! 赤井姉弟に、弄ばれた~~~ッ!」
僕は、空気を入れ換えて、気分転換しようと、部屋のドアを開け、窓を開けた。
赤い包装紙で個包装された、アップルティーのティーバッグが、誤解……、ならぬ、五枚入れられていた。
その五枚を持ち上げると、窓からの風に、ヒラヒラ~ン……と、二つ折りにされたメモが、ヒラリ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
何、エッチな妄想ばっかしてんだよ~! 私、毎日、赤いT-back 履いてんじゃなくて、赤いTea Bag!
『生徒会長として、責任を果たすんだ~ッ!』って、毎日、赤い褌締め込むイメージで、お洒落なアップルティー飲んで、気合い入れてんだよ~ッ!
このドスケベ~~~ッ!
by 赤井姉♪
お疲れちゃ~ん!
俺さ、「うちの姉ちゃん、毎日、『赤いTea Bag!』」、って発音したつもりだったんだけどな~……。俺の発音、悪かったのかな~♪
うちの姉ちゃんが、毎日、赤いTバックを『履いてる』なんて、一言も言ってねぇ~ヨ~ン♪
「エッチな妄想、して、くれたかな~?」
「したとも~!」
……ってか?
by 赤井弟♪
ドッキリ! 大・成・功~ッッッ!!!
ニャハ♪
by 赤井姉弟♪
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
と、書かれていた。
「クゥ~~~ッ、ドッキリ~~~ッ!」
赤井姉弟、恐るべし。
そうだったんだぁ~。赤井さんて、弟のネタふりを、真面目なフリして演じ切れちゃう、イタズラ大好きおもしろ姉さんだったんだぁ~!
チャーミングな人だな~……。
それにしても、『赤い褌締め込むイメージで、赤いTea Bagのアップルティーを飲む』って、どんな感覚やね~~~んッッッ!!!
僕の高校生活は、まだまだ始まったばかり。
僕の恋は、どこへ向かって行くんだろう?
今回のドッキリで、おもしろ赤井姉弟とは、益々仲良くなれそうだし、先のことは~……、ま、いっか!
部屋の窓から家の中を、爽やかな風が吹き抜ける。その風が心地よく、何だか、スガシカオだった。
……じゃなくて、清々しかった。
『赤井さんに恋をして』
超・妄想コンテスト : テーマ『赤』
2019(令和元)年7月14日(日)〆切
応募作品
『赤井さんに恋をして』
第一話~第八話にて応募
このつづきは、あるとかないとか……。
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