僕は殺し屋

7/7
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 涼しい風が吹くと、急に胸が締め付けられ、カメラから顔を離した。 「真剣に向き合えた?」  あの日以来、トーコさんと目を合わす。 「トーコさんは僕の事が怖くないですか?」  被害者のこの人は、加害者の僕と向き合っている。  その表情から伝わるものはない。 「今度あんたが飛びかかったら、息の根を止めてあげる」  トーコさんはそう言うとカッターナイフをポケットから出した。 「スパッとね」  切られた彼岸花からは白い汁が出た。  トーコさんは躊躇うことなく手にすると僕に向けた。 「これ、毒あるから」  触ると手が腐る、と母さんに教えられていた。  お彼岸の頃に咲く不吉な花だと。  僕は恐る恐る手を伸す。  トーコさんの手に触れた。 「花言葉は悲しい思い出。私の大好きな花。これ、あんたにあげる」  僕の手には一輪の彼岸花が、力強く咲いていた。 「殺すも生かすも、あんた次第だから」  トーコさんの颯爽と歩く後ろ姿は、出会った頃を思い出させた。  そして煙が上がる。 「ここ禁煙です!」  僕の声が澄み切った空に響くと、トーコさんは背を向けたまま手を上げた。  この時間を・・・・・・  この瞬間を・・・・・・  僕の感情を・・・・・・  トーコさんの感情を・・・・・・  僕は残したいと思った。  僕は歯を食いしばりカメラを構えた。  ファインダー越しの世界はボヤボヤだった。  それでも僕はシャッター音を聞き続けた。  これから僕はヨウちゃん会いに行く。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!