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家庭実習が認められるまでになった僕を、父さんは小さな車で迎えに来てくれた。それは僕がいた頃の車とは違っていたけど、父さんによく似合っていた。
車はのどかな田園風景をバックに、川沿いを走って行く。
僕は助手席の窓を全開にして風を感じた。
自然と真っ赤な絨毯が飛び込んでくる。
秋の訪れを知らせてくれるように咲き誇る光景に僕は惹き込まれていた。
「彼岸花」
僕は思わず声にする。
母さんの嫌いな花。
「大丈夫か」
車を止めて一言発した父さんの声を久々に聞いた。
優しい声だった。
「行ってきます」
僕は返事の代わりにそう言うと、力強く車のドアを閉め、一人のカメラマンの方へ向かった。
一面赤色の中で、トーコさんは足を大きく広げレンズを覗いていた。
横に立つ僕の喉が鳴った。
「ここで吐くのは勘弁ね」
トーコさんは僕を見る事なく体勢を整えると次の撮影ポイントに移動した。
僕は緊張していた。
施設での失態をトーコさんの前で繰り返さないように、朝食を抜いてきた。
少し距離を空け歩く僕は、トーコさんの歩調を観察し、ピタッと止まった。
トーコさんは僕の前にカメラを差し出す。
「構えて」
僕はカメラを受け取った。
「曖昧な記憶を記録する手段として、これから見るあんたの世界を、自分の手で残して」
僕はトーコさんの真似をした。
「何が見える?」
「赤・・・・・・毒々しい世界」
僕は感じたまま答えた。
茎から花びらを直接付けているように見えるこの花に葉はなく、独特な姿をしていた。
それは赤い花火が咲いているようだった。
レンズ越しにカマキリと目が合うと、僕は夢中でシャッターを押し続けた。
この幻想的な世界を誰かと共有したいと思った。
父さんと母さんと一緒に見たいと思った。
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