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夏の嵐④
道場を出た絵里は泣いていた。
それは勝負に負けた悔しさではなかった。
人と競い、ライバルや上下でしか人間関係が築けなかった彼女にとって夕子の優しさがしみじみと胸に突き刺さったのだ。
「夕子、すごいな。まさか柔道をやってたとは。」
凉は驚いた表情をみせる。
‥いいえ、絵里さんもすごいです。私が勝てたのは偶然です。‥
「士郎、絵里も見てきてもらえないか?」
「おれが‥」
「あいつ、突っ張ってるけどほんとは寂しがり屋だから‥」
「よっしゃー任しとけ!」
士郎も道場から出る。
「夕子、実はな、頼みがあるんだ」
‥なんでしようか?‥
「おれたちのバンドに入ってくれないか?」
凉は手を合わせてお願いする。
‥バンドですか。‥
夕子はきょとんとしながらメモリックスを打つ。
「この前きみの家にお邪魔したとき、応接間で立派なグランドピアノを見たんだ。
きみはピアノが弾けるんだろう?」
夕子は頭をこくんと下げる。
「明日部室で練習するんだ。よろしくな!」
凉は夕子が来てくれることに喜びを感じていた。
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