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夏の記憶④
凉を乗せた夕子のバイクは中央シティーの郊外を抜けて田園地区へ向かう。
ひまわり畑が道の両側に延々と続く。
細い道を駆け登ると緑の大木におおわれた邸宅がみえる。
表札には美杉とある。
立派な家屋敷だ。
「ここ、きみの家なんだね」
夕子はこくんと頭を下げる。
同時に玄関の扉が開く。
中から1人の初老の紳士が出て来る。
「お嬢様、お帰りなさい。お父様もお母様もお待ちしております。」
紳士はこの家のおそらく執事であろう。
執事は凉を応接間へと案内する。
(ほんとに広い屋敷だ。夕子のお父さんは有名な会社社長とか。)
夕子と凉が隣同士にソファーに腰掛ける。
今日まだ顔を合わせたばかりなのにずっと以前から知っていたかのように感じていた。
応接間のドアが開き、白髪混じりの頭髪に白髪の口髭、黒い眼鏡をかけた男が入ってくる。
(この人が夕子の父親だな。でも顔が似てないな。母親似だろうか?)
「わたしは美杉圭介、きみが台場凉君だね。いやーなかなか頼もしそうな青年だね。」
「いやーそんな。」
凉は照れくさそうに耳のあたりに手をやる。
「台場くん。娘がうちに人を連れてくるのは初めてのことなんだ。」
「ええーそうなんですか。」
「きみももうわかってると思うが、娘は小さい頃ある事件のショックでそれ以来口か聞けなくなってしまった。聴覚は正常だが話せない。」
凉が教室で初めて夕子を見た時、明るさの中にも陰りが見えた。それが多分過去の事件との関わりでないかと感じていた。
そして美杉圭介が改めて著名な人物であることを悟った。
先日ニュースで放送されていたことを思い出した。
「失礼ですが、美杉博士ですね。日本時空光学研究所の。昨日時空理論の研究発表をされてましたね?」
「台場君、自己紹介が遅れたね。その通りだよ。私は日本時空光学研究所の所長を努めておる。」
「やはりそうでしたか。」
その時ドアが開き年配の美しい女性が入ってくる。
なんとなく夕子にどこか似てるようにもみえるその女性は凉に挨拶する。
「夕子がお世話になってます。」
「家内の和美だ。」
「どうぞゆっくりしていって下さい。」
テーブルにお茶を出して部屋を出る。
凉は先程から気になっていたことを切り出す。
「博士、夕子さんを襲ったショッキングな事件て何ですか?僕にも少し察してることがあるんですが。
」
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