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正義の魔王ジング
場所はレインキア島。
亜熱帯性の植物が実り暖かい気候の島。
しかしそこでは禍々しい言い伝えがあった。
やがて島に魔王がこの地に生まれ変わる。その者、胸にXの痣を持つ。
そしてその時が来た。
王の命令ではXの痣を持つ赤子が生まれ次第始末せよとの事。
しかしその赤子を殺す事が出来ない母親はその子を船に乗せて逃した。
「ジング、そう貴方の名前はジングよ、私は間もなく死にます、その前にお前のXの痣は魔法で隠しましょう、いつその魔法が切れるかわかりませんがジングよ、貴方はレッドウールにある孤児院に預ける事にします。トーハ様の言う事をよく聞くのよ」
その後母は息耐え、その赤子はレッドウールという地方のとある孤児院に預けられた。
Xの痣を魔法によって隠されたその赤子はやがて少年となり、友人に囲まれてすくすくと育った。
それから18年の月日が流れた。
ーーー
「勝者ジング!!」
ジングは剣士の決定戦で見事勝ち残り、剣士となった。
「おめでとう!」
ジングの元に少女が駆け寄ってきた。
「ありがとう、アリン!」
ジングとアリンは口付けを交わした。
そう、二人は相思相愛の仲であった。
アリンは光り輝くブロンドの髪にアクアマリンのように輝く瞳で顔立ちの整い、緑色のドレスを着ていた。
「お熱いじゃないか、二人とも!」
更にやってきたのはこれまでジングをはじめ、身寄りのいない孤児達を育ててきた壮年の男だった。
「ありがとうございます、トーハ様!」
ジングはトーハと呼ばれた男にお辞儀をした。
「まさかお前がこんなに立派に成長するなんてな、幼い頃は泣き虫だったお前がな」
「ははは、恥ずかしいなあ♪」
二人は笑い合う。
アリンも二人のやりとりをみてクスクスと笑っていた。
仲が良くゆくゆくは結婚すると思われたジングとアリンだがある日アリンは病魔に倒れてしまう。
ーーー
病院の中、横になって日に日に弱っていき、青白く痩せた若い女性とその側で立っている黒髪の青年。
「ごめんね、こんな事になっちゃって…」
アリンは病の為、やつれた顔で、しかし笑顔でジングに囁く。
「何言ってんだ、薬飲ませてやるから早く元気になれよ!」
アリンの身体は治すのが難しい病気でジングの飲ませた薬もアリンの病気の進行を止めるものに過ぎなかった。
しかしジングはアリンの身体が元に戻ると信じて疑わなかった。
「ジング…こんな私でも愛してくれるの?」
「当たり前じゃないか…」
ジングはアリンの細い手を力一杯握り、嗚咽を漏らした。
ジングが沈んだ表情で病室から出たその時、親友のゴルアがやってきた。
「ジング!ここにいたのか?」
「ゴルアか、どうした?」
ジングはゴルアの次の言葉で一筋の希望が見えてきた。
ひょっとしたらアリンの病気が治るかもしれない!
しかしそれは危険な「賭け」でもあった。
「サファイア山の頂上に世界樹の葉があると聞く!」
世界樹の葉、それは不治の病に倒れた人や瀕死の人を蘇らせる事が出来ると言う伝説の葉である。
しかしそれは何処にもあるわけでは無く、見つかるのは奇跡と言っていい。
しかしジングにはそれに賭けるしか無かった。
待っていろアリン!今すぐお前の身体を治してやるからな!
ジングは一人愛する女性の事を胸に秘め、強い期待と不安の心を胸にサファイア山へ向かった。
ーーー
ジングは仲間を連れてサファイア山へ向かったが三人の仲間が犠牲になり、生き残ったのはジング一人となった。
そうした苦労の末、世界樹の葉を手に入れ、戻ったジングだったが、帰った頃には彼女の姿はなく、代わりに置き手紙が置いてあった。
ジングはその置き手紙を読む。
『親愛なるジングへ、その手紙を読む時には既に私はいません、代わりに私の家の地下室に私から貴方に贈りたいものがあります、そこで貴方自身は知らなかった事を私から伝えたい事があります』
ジングは続きを読んで愕然とする事になる。
『出来る事なら早く伝えたかったのですが…今まで黙っていた事は謝ります、何故なら貴方にショックを受けて欲しくは無かったから』
ジングは彼女からの置き手紙を読み続け、自分の宿命を知る事になる。
『実は貴方は魔王クローバの生まれ変わり。本来なら世界を滅ぼすであろう人間です。貴方は魔王となって世界を滅ぼさないといけない。しかし貴方はそれにはあまりにも善人となり過ぎてしまった』
俺が魔王?
アリンの伝える事は信じたい、しかし俺は国を守りたくて剣士になったんだ。
ジングは混乱した。
『私が貴方に贈りたいのは魔剣クロスカリバー…クロスカリバーは作り主の生命力を犠牲にして作られる暗黒の剣。私はそれをどうしても造りたくて自身の身体を殺めてしまった』
『ジングよ、この魔剣クロスカリバーを持って世界を滅ぼしてください、そして勇者に倒されてください、それが貴方の宿命です!』
手紙はそこで終わっていた。
ジングは半ば混乱しながら彼女の家の地下室に向かう。
薄暗い地下室を魔法で照らし、地下室に向かうジング。
地下室は綺麗に磨かれ、アリンの丁寧で几帳面な性格が伺える。
アリンが病気に倒れてから両親がやっていてくれてたのか?
しかしそのアリンも今はいない。
きっとこの地下室もやがてカビくさくなっていくだろう。
ジングは地下室のドアノブを握り、それを開いた。
中には鉄を打つかまどや色々な刀剣が置いてあったが一際目立つ剣がジングの目に止まった。
「これは…」
ジングはその剣に息をのんだ。
その剣は赤い宝石のような刃がついていて、握り手が黒く、そして禍々しく光っていた。
ジングはその握り手を片手で握り、赤く光るその剣を見据える。
アリンの思いがその剣から伝わってきた。
「これが魔剣クロスカリバー…アリン…俺は必ず世界を滅ぼしてみせる!そして勇者に倒されてみせる!」
ジングはそう心に誓った。
そしてジングはアリン以外の女性とは付き合わない事を決めていた。
しかしそれは天がお許しにならなかった。
ジングが部屋から出るとおかしな美少女がにまにま笑いながらジングを見ていた。
赤く長い髪で肌の部分が多く目に毒な格好をしている。
見た目の可愛らしさがそれを助長し、更に誘惑的な魔性の姿そのものだ。
しかしそんな美少女に誘惑されるジングではない。
「あんたは誰だ?」
ジングはその少女に問いただした。
「そう身構えないでよ、私はアリンと契約を交わした悪魔、レヤンと呼んで♪」
ウインクするレヤンと名乗る小悪魔。
「悪魔だと!?」
ジングは剣の取っ手を握った。
しかしその少女を斬る程残虐なジングでは無かった。
「どうしたの?斬るんでしょ?私を斬っちゃいなよ♪」
レヤンはワザとのようにジングに誘惑する。
「ふん、馬鹿馬鹿しい!」
ジングはレヤンの横を通り過ぎる。
「堅いわね~、モテそうな顔してるのに勿体ない」
レヤンはジングのつっけんどんな態度にも臆せず呑気についていく。
「ついてくるなよ」
「やだもん、それとあんたこんなんじゃ立派な魔王になれないわよ?アリンに笑われても良いの?」
アリン…そうだ、俺は魔王にならなければならない。
しかしそんな美しい姿じゃ勇者と見違われる。
現に、人々も「勇者様だ」と言った目で俺をみている。
そうだ、黒い鎧を着て魔王の姿になろう。
「私ならその黒い鎧を出すことが出来るけど?」
レヤンが言ってきた。
「お前勝手に心を読むなよ!しかし一応礼は言う」
ジングは黒い甲胄を着た。
「なんだかんだで着てくれるんだ?」
「勘違いするな、アリンのためだ!」
ジングは黒い甲胄と魔剣クロスカリバーを持って世界を滅ぼす旅に出かけた。
レヤンという小悪魔をオマケ付きで。
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