白銀の悪魔

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白銀の悪魔

「お願いだ…許してくれ!」 辺りは炎に包まれ、街は鉄の錆びた臭いが充満している。 真っ赤に燃えた豪邸の中に、白銀の服を着た銀髪の青年が血で濡れた剣を片手に殺意に満ちた形相で一人の男を見やる。 口元は笑っているが目は座っていて、その姿は不気味だ。 「これまで厳しくしてたのはお前に期待していたからなんだ!お前に立派な勇者になって欲しくて…!」 一方の男は言い訳をしながら蛇に睨まれた蛙のように表情を恐怖で歪ませていた。 大の大人なのに泣き出しそうな顔をしていて滑稽にも見てとれる。 「やかましい!」 青年は男に斬りかかる。 「ぎゃあぁっ!」 男の片手が地に落ちる。 青年はラベル、勇者と期待を込められ、厳しく育てられた男、そして斬りかかられようとしているのはラベルを厳しく育ててきた教官だった。 男は失った片手から血がドバドバ吹き出すのを防ぐように片手で強く抑え、ラベルに命乞いをする。 「ほ、欲しいものならなんでもやるぞ!金か?女か?」 男は恐怖のあまり体は震え、下着が無意識のうちに濡れている。 しかし自分の命が大事でそんな事は気にしていられない。 ともかく目前にいる「鬼」を鎮めなければならなかった。 「欲しいもの?欲しいものを散々奪ってきたのは貴様だ!今更甘い言葉かけるんじゃねえよ!!」 ラベルは怒声を男に浴びせる。 「ひい!ごめんなさい!!」 フウッとため息はつくものの目前の男への殺気は中々抑えられそうになかった。 「今の俺の欲しいもの…それは貴様の首だ!!」 「ぎゃあぁっ!!!」 男の首は撥ねられた。 グリーンバブルの街はモンスターでは無く、一人の「勇者」によって鎮められた。 ーーー 「酷い事になってるな…」 ジングは辺りを見渡す。 街だったものは瓦礫の山や煙や錆びた臭いに塗れている。 「出番取られちゃったわね♪」 リヤンが呑気に声を漏らす。 「そ、そこの方…」 ジングの足元にある男が。 「生きてるのか?傷は浅い!しっかりしろ!!」 ジングは男を担ごうとするがそこで別の男が怒声をあげて呼び止める。 「貴様!この男を生かしておくのか!!」 呼び止めた主は銀髪に白銀の鎧、そして鋭い目でジングを睨んでいた。 先程街を滅ぼした勇者ラベルだ 「こいつは死にかけてるんだ!病院に連れていくのが道理だろう!!」 ジングが言い返す。 「こいつは俺から勇者に育てるとかこつけて色々なものを奪った腐れ外道だ!生きる価値なんかない!!」 今、こいつなんと言った? 「ひょっとして君は勇者か?」 勇者と早々出会う事になるなんて。 「まって!世界を滅ぼすのが先よ!!」 リヤンがジングに叫ぶ。 「逃げるのか卑怯者!!」 挑発するラベル。 「逃げはしないさ」 ジングが剣を抜き、リヤンに言った。 「リヤン!男を頼んだ!」 「ジングとか言ったな!不吉な黒い鎧を着やがって!あんたは何者だ!!」 「魔王だ」 ジングは黒い仮面から目を光らせて答えた。 「魔王にあったからには百年目!今すぐここで貴様を殺してやる!!」 剣を敵方に構え突っ込むラベル。 キイン! ラベルの白い剣とジングの赤い剣が重なり合う。 「こなくそ!!」 ラベルは剣の連撃をジングに浴びせる。 キイン!キイン!! 「ははは!俺の剣が速すぎて手も足も出ないか!!」 ラベルは笑いながら防戦一方となっているジングに剣を浴びせた。 「ジング…まだ世界を滅ぼしてないのに…」 リヤンがジング達を見守りながらそう呟く。 そんな中でジングは思った。 (この少年なかなか剣を使いこなせていないな、隙だらけだしスピードも対して速くない) しかし一方のラベルはやはり自分の方が強いと慢心している。 「さあとどめだ!!」 ラベルが剣で魔王ジングの(はらわた)(えぐ)ろうとした。 「ジングーーー!!!」 リヤンはとどめを刺されようとしているジングに金切り声を上げる。 キイン!! 「何!?」 ラベルが目を見開く。 ジングの持つ剣がラベルのトドメの一撃を防いだ。 「安心しろ、世界を滅ぼすまでは俺は死なない!」 そしてジングはラベルの剣を空中に弾いた。 弾いた剣は空中を舞い、大地に突き刺さる。 「な、何ぃ!!?」 ラベルは驚く。 「いい戦いだった、しかしまだまだだ、腕を磨いてもう一度俺の元に来るがいい」 そう言うジングには息が上がっていない。 これまでラベルの強さを試していたといったところだ。 「お、覚えときやがれ!!」 ラベルは突き刺さった剣を抜き、廃墟と化した街から走り去った。 そこで男の事が気になったジングは男の頭を自身の太ももに乗せているリヤンの元に歩み寄る。 「リヤン、男の容態はどうだ?」 ジングはそうリヤンに言うがそう言うリヤンは悪びれもなく言い放った。 「ごめん♪この男の「魂」は先程私が食べちゃったわ♪」 リヤンの太ももに乗せている男は安堵しつつもほおはこけて仏に召されたような顔をしていて、ピクリとも動かなかった。 「リヤン!お前ってやつは…!」 ジングは怒気と呆れの混ざった声を漏らす。 「しょうがないじゃん、私悪魔なんだし♪」 そうだった、こいつは悪魔だった…。 ーーー そして人里離れた別の街、勇者ラベルは強い武器と鎧を買う為にモンスターを退治しながら稼ぎ、その街を歩く。 街の人々は幸せそうにしている。 子連れの家族、カップル、夫婦…いずれも輝いてみえている。 その様子を見てかえってラベルの心の奥底に闇がフツフツと沸き起こってくるのを感じた。 (俺はただ一人勇者として魔王と戦わないとならないと言うのにどいつもこいつも幸せそうにほっつき歩きやがって…) ラベルは剣を握る。 (勇者の心とか関係ねえ…てめえらの為に俺だって魔物と戦ってるんだ…魔物に襲い掛かられる気持ちをてめえらにも味あわせてやる!!) 「うおおおおぉ!!!」 そして勇者ラベルは爆発し、街にいる人々を次々と剣で斬り裂いていった。 「キャアァッ!!」「助けてくれー!!」 ラベルから逃げ惑う人々 「何の騒ぎだ!?」 街の兵隊が駆けつけ、ラベルを武器や魔法を使って止めようとするがラベルの暴走は食い止められず、ラベルは街の人々や街そのものをまたも瓦礫の山にした。 その後に続き、街にたどり着くジングとリヤンだがその街も滅ぼされていた。 「またも出番取られちゃったわね…」 リヤンは呆れ顔で漏らす。 「次は上手くやろうと思ってたんだけどな…」 ジングはそう言ってみせるがリヤンはそのジングの言葉にクスクスと笑みを漏らした。 「そうは言っても人を助ける事はできても街を滅ぼすなんて事貴方には出来ないじゃない♪」 リヤンのからかいにジングもため息をつく。 「この優しさはどうにかしないといけないな…ん?」 そこでジングは息の根のある人を見て駆け寄る。 「ちょっと言ってる側から人助けてどうするのよ!!」 リヤンは慌てて追いかける。 「大丈夫か!?」 「勇者と名乗る白い髪と白い鎧を着たやつが街を…」 そう言ってカクンとその男は首を垂らす。 既に死んでいた。 なんてことだ…。 俺が滅ぼさなければならない街を勇者が滅ぼしていってるなんて…。 「勇者が街を滅ぼしていっているなんて…」 リヤンが複雑そうな表情を浮かべる。 そんな中、ジングは何かを心に決めたような顔をして立ち上がった。 「俺が勇者の暴走を食い止めなければならない!」 それを聞いたリヤンは焦る。 「これじゃ立場が逆じゃない!どうして魔王が勇者を助けなければならないのよ!!」 ジングは強い目線でリヤンを見下ろし言葉を返す。 「俺が滅ぼさなければならない街を勇者が街を滅ぼしていっている。勇者に出番を取られる前に俺は勇者を食い止め、改心させなければならない!」 その言葉にリヤンはさらに疑問を投げる。 「何故魔王がそんな事をしなければならないの!?」 「まだわからないのか!勇者を改心させたあと俺は街を滅ぼし続け、やがて勇者と剣を交わり、倒されなければならない!!」 その言葉でリヤンは理解したようだ。 「魔王としての役目を果たす前に一仕事しないといけないみたいね…」 「そう言う事だ、行くぞ!」 ジングとリヤンは暴走し続ける勇者ラバルを食い止めに旅を続けた。
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