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より高みを目指して
「こんなんじゃ駄目だ…俺はもっと強くならなければならない…」
あの魔王の力、あの力は強大だった。このままでは俺が魔王に殺されるのかもしれない。
地面に転がるのはモンスターの骸、それはラベルが剣の腕を上げる為に斬っていったモンスターだった。
目前のモンスターは弱い、しかしラベルの気は焦っていた。
ラベルは魔王ジングとの戦いを思い返し、自分がまだ魔王と戦えるレベルに達していないと悟った。
「こんなエリアでは駄目だ、もっと強いモンスターがいるエリアで修行を積まないと…」
ラベルはもっと自分の剣と魔法の腕を上げるために更に強いモンスターのいるエリアへと向かった。
しかしそれが誤った選択であった事を
ラベルは後々に思い知る事になる。
ーーー
ジングとリヤンはブハラークの村にやってきた。
そこは飢えや自然災害に苦しんでいた。
放って置けなくなったジングはすぐさま食料調達と自然災害に備えての補強の強化に尽くした。
ーーー
「まさかここまでしていただけるなんて、疑ったりしてすみませんでした」
ジングに詫びる村人達。
やってきたときは黒い鎧を纏っていて、顔も見えなかったので不審そうにみられていた。
無理もない話だ。
「いやいや当然の事をしたまでですよ♪」
ジングは笑いながら答える。
隣ではリヤンが不愉快そうな表情をしているがジングは気にしていない。
「しかし魔王だなんて面白いネーミングですね♪」
ジングと語りながら笑う若いお姉さん。
「いててっ!」
突然ジングは耳を引っ張られる。
それはリヤンのものだった。
「何鼻の下垂らしてんのよ!!」
若い女性と話されているのが気に入らないようだ。
「何言ってるんだ、彼女は子持ちだし構わないだろう?」
「きゃっきゃっ♪」
ジングの足元では数人の子供がジングの黒い甲冑で遊んでいる。
肩にも子供がジングの黒い兜を弄って遊んでいる。
ジングは村人から礼の餞別を贈られ、別れを交わした。
「全く!何で村を滅ぼすどころか助けたりなんかしたのよ!!」
リヤンはほおを膨らませてジングを責める。
「あんな小さな村滅ぼしたところで何にもならないだろう?もう少し大きくしてから滅ぼせば充分じゃないか」
ジングは言葉を濁す。
「ホント貴方って魔王に向いてないわね!あのラベルって子と入れ替えれば良いんじゃない?」
「かもな、でも俺は魔王だし、アリンとも約束したからな…」
ジングは手元にかけてある魔剣クロスカリバーを眺めて切なそうな表情になる。
リヤンは物思いにふけるジングに対し歯がゆい気持ちになり、頭を思い切り叩く。
「痛っ!何するんだ!」
黒兜なので痛いことはないが衝撃が効いたのは事実だ。
「いつまで亡くなった子の事考えてんのよ!だからあんたは街一つ滅ぼせないのよ!!」
「ああ、わかってるさ、わかってるけど…」
「はぁ…全くあんたって人は…」
リヤンは今のジングには溜息をつかざるを得なかった。
そして夜。
旅に疲れたジング達は宿を借りる事にする。
身体を休めて武器を手入れするジング。
その側ではリヤンが甘い声を出しながら自分を弄っている。
「お前…せめてそれは俺の目に入らないところでやれよ…」
ジングは顔を真っ赤にしてリヤンに注意をする。
「だってジング全然構ってくれないんだもん♪」
リヤンは自分を慰めながら声を漏らす。
「はぁっ…」
ジングは武器の手入れをやめ、立ち上がる。
「どこ行くの?」
「風呂だよ」
「流してあげようか?」
「少しは恥じらえ!」
リヤンのからかいにジングは文句を走らせ、棒を硬直させたまま風呂に向かった。
「あんなにギンギンにしちゃってかわいー♪」
リヤンはクスクスといたずらっ子のように笑っている。
先程は怒っていたが直ぐにカラッと忘れてしまうところは若い女性の特徴そのものだ。
そう言えばアリンもそんなところがあった。
まあ、リヤンよりは遥かに恥じらいがあり何より女の子らしかったが。
ジングは浴衣に洗面器を持って浴場に向かうが若い女性達がジングを見て囁き合っていた。
「あの人かっこいい☆芸能人かな?」
「肌もツヤツヤで女の子みたい♪」
(これだから素の姿見られるのは嫌なんだ…)
ジングは息を漏らした。
そして浴場に入ると浴衣を脱ぎ、裸になる。
浴場には温かい蒸気が舞う。
浴場には数人の老人や男性、子供などが体を洗ったり湯に浸かっていた。
ジングも風呂の桶に座り、湯を浴びるのだが隣にいた老人の男に話しかけられた。
「立派な体だねぇ、あんた剣士さんかい?」
「はい」
そこでジングと老人の目が合う。
「あんたえらい男前だねえ、女の子には困らないんじゃないのかい?」
「いえ、そんな事…」
ジングは恥ずかしげに俯く。
老人は喋り続けた。
「あんた彼女いるのかい?」
老人の男はこう言って若者をからかうのが好きだ。
ジングは答えた。
「前はいました、でも今はいません…」
ジングは表情を沈める。
何かあったんだろうと察した老人は言葉を噤む。
「そうか、悪い事を聞いたな、ところで兄ちゃん、白い魔王の噂って知ってるか?」
「白い魔王?」
少しジングの目が見開く。
「俺は勇者だーとか叫んで街一つ一つを滅ぼしていってる奴だ、銀髪に白い鎧を纏っててそこから白い魔王と呼ばれてる」
「!!!」
ひょっとしたら勇者ラベルか!?
ジングは思った。
「俺はそいつに腕を斬られた、見なよ、これは切り傷の跡だ」
男は自慢するように傷跡をジングに見せる。
「顔も見たんだが歳は15か6そこらかな?まだあどけない感じだったが目はヤバかったな♪」
老人はがははと笑った。
「その少年はどこにいるんです!?」
ジングは半ば慌てるように老人に聞いた。
ジングの慌てように少し戸惑う老人だが答えた。
「今はわからないが噂では危険と言われてるデンジラス岳ってとこに行ってるらしい」
あそこは強いモンスターがウヨウヨしている場所ではないか!
ジングもかつて魔物退治にそこに派遣されたがモンスターはあまりにも強く、流石の手練れの剣士達も歯が立たず、命からがら逃げ帰った。
それをラベルが一人で…。
これじゃ勇者が魔王を退治する前に勇者が魔物に殺されてしまう!
これじゃ伝説にならない!
一刻も早くデンジラス岳に向かわなければ!
ジングの顔色に焦りが見えた。
「ありがとうございます!」
ジングは男に礼を言って浴場を後にした。
「あんなに慌ててどうしたんだろう?しかし今時の若者にしちゃ話しやすくて感じの良い奴だったな♪わしもあんな孫が欲しかったな♪」
老人は機嫌良さげに歌い出した。
風呂上がりにもかかわらず緊張した表情で部屋に戻ったジング。
「あ、ジング早かったじゃない♪」
リヤンはあられのない格好でベッドで本を読んでいる。
普段なら「服着ろよ」と突っ込むジングだが今は様子が違っていた。
「どうしたのさ固い表情して…」
きょとんとした目で見るリヤン。
「リヤン、今すぐ出発だ!勇者が危ない!!」
ジングは慌てた様子で荷物をまとめようとした。
「もう何そんなに慌ててるの?そんな必要ないって♪」
リヤンはカラカラと笑う。
「勇者はデンジラス岳に行ってるんだぞ!早く俺たちも行かないと!!」
呑気なリヤンをジングは急かせる。
「知ってるってそんな事は♪」
「何?」
ジングは首をかしげる。
「あの子は今モンスターに可愛がってもらってるわ♪つまり飽きられない限りは殺される事も無いって事♪あぁ、思い出しただけで濡れちゃう♪」
「今頃どんな目に遭ってるんだ?」
「いやん私の口からは言えないわー♪」
リヤンは魔法「テレパシスト」で勇者の様子を見ていたようだがそれを想像して自分を慰めていたようだ。
しかし勇者はどんな目に遭ってるんだ?
ジングは理解に苦しんだ。
ーーーデンジラス岳
厳しい渓谷にある山のふもとにある大きな洞窟。
その中には凶悪なモンスターが沢山いて、縄張りを争ったり時折人里を襲って喰らったりして暮らしている。
噂の通り強そうなモンスターばかりである。
厳しい自然の環境がモンスター達をそこまでにしたのか。
自然の恐ろしさが感じられる。
その洞窟に捕らえられている例の勇者、ラベルがいた。
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