堕ちた勇者ラベル

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堕ちた勇者ラベル

モンスターの巣食うRPG世界。 そしてやがて魔王が現れ、モンスターの群れを率いて人々を滅ぼしに来ると言い伝えられ、人々はそれに怯えて過ごしていた。 ただ、もう一つの伝説もあり、この世に手に星の紋章を象った勇者が現れてモンスターの群れと魔王を倒し、この世に栄光と繁栄をもたらすとも言い伝えられていた。 人々は魔王の脅威に怯えつつこの世に勇者が現れるのを待ちわびていた。 やがて、人々の待ち侘びていた勇者がやがてとある村で産声を上げる。 彼はラベルと名付けられた。 少年ラベルは勇者となりていずれは魔王を倒すべくひたすら剣の稽古と魔法を学ばされた。 そして町にモンスターが襲いかかってくる。 「勇者ラベルよ!モンスターが現れた、君の力でモンスターを倒すのだ!」 「はい!」 勇者ラベルは身に鎧を纏い手に剣と盾を持ってモンスターを倒した。 「ふう…」 モンスターを退治し、帰還するラベル。 町についた頃はもう日が暮れかけていた。 町には若い男女のカップル、そして家族連れの幸せそうな姿。 ラベルは相変わらず平和な町の様子に微笑みを漏らすが、逆に心のどこかに(わだかま)りを感じるようになった。 帰ってからも厳しい稽古が待っている。 生まれついて勇者となる宿命を負ったラベルには休息はゆるされなかった。 ただ、彼にはまだ救いがあった。 何故なら心の拠り所となる少女、サリアがいたからだ。 厳しい剣の稽古で倒れふしたラベルの元に食事が置かれた。 優しい手触りで傷が癒え、香ばしい匂いが鼻を包む。 ふと起き上がるとサリアが心配そうな瞳でラベルを見つめていた。 「大丈夫?」 傷を負ったラベルにサリアは聞く。 見たところ大丈夫とは言いがたいが大丈夫と聞くのは人情というもの。 「大丈夫だよ」 ラベルは答えた。 体のあちこちが剣で撃たれた跡やモンスターに傷つけられた跡で痛むが勇者たるもの甘えは許されない。 それは教官にもそう教えられていたしラベル自身そう自分にも言い聞かせていた。 しかし本能には逆らえなかった。 ラベルは自分でも気づかぬ間に嗚咽をあげていたのだ。 サリアはそんなラベルに優しく語りかけた。 「辛かったのね…勇者になるからといって我慢しなくて良いんだよ、貴方の気持ち、私が受け止めてあげるから…」 「うわぁん!」 ラベルは今まで我慢していた感情をさらけ出し、サリアの華奢で折れそうな体を力一杯抱きしめた。 やがて日が暮れる。 「あ、もうこんな時間、ラベル、また明日ね」 「うん、君のおかげで心がかるくなった、ありがとう」 そして小屋から出るサリア。 「!!」 サリアの前には今会っては都合の悪い人物が立っていた。 「何をしていたサリア?」 その人物はサリアの父親だった。 「わ、私は…」 サリアは言い逃れの言葉を探ろうとしていた時に父は口を開いた。 「それよりサリア、お前に伝えたい事がある」 その父親の表情には黒い影が見えていた。 ーー ラベルはサリアのおかげで頑張る気になれた。 しかし、サリアがラベルの元に訪れるのはそれが最後であった。 ーーー 「どうしたんだろう?サリアがあれ以来来てくれない…」 ここ一週間サリアが来てくれなくて、ラベルは日々が辛く感じ、そしてサリアの事が気がかりで仕方なくなった。 そしてラベルのおかげで平和が保たれて、人々が幸せに暮らせている事にどういうわけかモヤモヤしてくるラベルがいた。 「テレパス!」 ラベルは魔法を使い、サリアと連絡を取ろうとする。 勇者は魔法で相手と交信するのは緊急時以外ではあってはならない事だった。 しかし今のラベルにはサリアに一度でも会いたくて仕方がなかったのだ。 『ブロックされているため、交信が出来ません』 「えっ!!?」 ラベルの脳内に暗雲が立ち込めた。 何故だ!?俺がサリアに泣きついたのがいけなかったのか? ラベルは我を忘れてサリアの家へと向かう。 「サリア!いるんだろ?出て来てくれ!!」 ラベルはひたすらサリアの名を呼び続けた。 「サリアはもうここにはいない」 その時、なんと教官がラベルにそう言い放ったのだ。 「どういう事ですか!?」 ラベルは鋭い目つきで教官を睨む。 「勇者ラベルよ、勇者は強くあらねばならない、魔王を倒すまでは、甘えはゆるされないのだ!」 「サリアがいるから俺は強くなれたんだ!サリアがいないと強くなんかなれない!!」 「この程度でまだそんな絵空事を言うのか!!フレイム!!」 教官は大きな火の玉をラベルに放った。 ラベルは火の玉に弾かれ、地に倒れ臥す。 「お前はまだまだだ、戻って稽古をするぞ!」 気絶したラベルは教官に服の(えり)をつかまれ、ズルズルと連れられていった。 ーーー サリアは父親からありもしないことを聞かされた。 何故あんな人を愛していたのか…。 サリアは自己嫌悪した。 『ラベルは日頃の鬱憤晴らしに動物をいじめている』 モンスター退治であることをそう(うそぶ)き、サリアをたぶらかせていたのだ。 『そしてサリアの下着を盗んでそれで下着を汚している』 確かに下着が無くなり、どうしたのか気になった事があった。 それが理由だったのか! もうラベルに会うのはやめよう…。 サリアはラベルに愛を向けなくなり、ブロックした。 ーーー ラベルは勇者として街を守り、ゆくゆくは魔王を倒さなければならない事にモチベーションを保って来たが心の拠り所を失い、それが保たれなくなってきた。 街はラベルのおかげで平和である。 しかし人々はそれが当たり前だと思っていた。 ラベルは自分自身と人々の間に温度差を感じていた。 (こっちは街を守るために懸命にモンスターと戦ったり、世界を滅ぼす魔王を倒す為に稽古を積んでいると言うのに…) ラベルの心の中に闇が蠢く。 ラベルはやがて教官から教わった剣や魔法をモンスターに対してでは無く、今まで守ってきた街に向ける事になろうとは…。 人々も教官達も気付くよしは無かった。
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