ひとりのはつじょうき

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「海外出張ってなんだよぉ」 付き合いだして3か月、大好きな人と、毎日同じ家に帰ってきて、毎晩同じベッドで眠れることがこんなに満たされることなんだと、幸せでしょうがないと思っていたところだった。 それなのに、学校から帰ってきた咲夜を待っていたのは逞しい胸でも腕でもなく、コーヒーテーブルに置かれたメモだった。 一週間ほどで帰ってくると書かれたその紙きれは、頭に来たから細切れにちぎってやった。 携帯電話に連絡を入れたが今はもう空の上なのか繋がりさえしない。 「これ、どうしたらいいの」 海外と取引をしている人だって言うのは前から知っていた。 突然海外に行くこともあるのだと言われていた。 でも、知ってるのと、納得するのは別物なのだ。 特に、今日は… 少し盛り上がったズボンの中心部に手を滑らせると、ビクッと体が震えた。 布越しに触れただけなのに、どんどんと体が火照りだして、頬に熱が集まる感覚に咲夜は泣きそうになった。 「伸弥さーん、はつじょーき始まっちゃうんだよー」 初めての発情は伸弥の腕の中で起きた。 学校帰りに立ち寄った本屋で、横に立った伸弥の瞳を見つめた瞬間、発熱したような不思議な感覚に陥った。 ぼーっと見つめ、動けなくなった咲夜を抱え、背丈の高い伸弥はこの家へと連れてきてくれたのだ。 それが3か月前。 伸弥の家に着き本格的に発情してしまった咲夜を優しく丁寧に解かし身体を繋げてくれた。 初めて起きた発情期は、学校で習った通り1週間続いた。 その間の記憶なんてほとんどなかった。 気づいたときには、先ほど目が合っただけの男性に貫かれ、奥の奥に熱を感じ、意味も分からぬ言葉を紡いでいた。 熱すぎる程の熱が体に注がれると、咲夜の発情は少しの間落ち着いた。 情事の合間に食べやすそうな物を伸弥が口に運んでくれていたが、気が狂ったように身体を求め、力尽きて眠り落ちた咲夜に記憶など全くなかった。 制服の前を開き、革張りのソファーに腰を下ろすと、布の隙間からひんやりとした感覚が伝わった。 「ひゃっ」 そんな冷たさだって、今の咲夜には快感に感じられて、スラックスの隙間から顔を覗かした先端に、ぷくぷくと精液の珠が現れた。 「んんん!あっやっ!む、むりぃ!」 性に疎かった咲夜は、発情期が来る前に自分を慰めるような行為をしたことがなかった。 誰かの前で衣服を脱ぐのも、誰かと体を合わせるのも、誰かを体で受け入れるのも、伸弥が初めてだったのだ。 付き合いだしてから、何が何だか分からなかった咲夜に色々を教えてくれたのも大好きな伸弥だったのだが、自分でどう処理をしたらいいかだけは教えてくれなかった。 「ひゃっ、んっ、あっ、ぬめぬめするっ」 見よう見まねで自分を手で包み、上下に動かしていくと、だんだんと滑りが良くなり手の動きも早くなっていく。 もっともっとと思う気持ちと、もうやめてと思うもどかしい気持ちの狭間で、咲夜は手を止められなくなっていた。 「あっあっ、やっ、んっ」 後孔からは自分の性独特の愛液が漏れだし下着をぬらしている。 その感覚が気持ち悪くて腰を浮かせるだけで、身体が気持ちよさを引き出して、腰がひくひくと蠢いた。 「はっはっ、もっとっ、もっとぉ」 こうじゃない。 伸弥がやってくれるときは、もっと大きい手ががっしりと咲夜を包み、頭がおかしくなるくらい気持ちよくしてくれる。 なんで、自分じゃできないんだろう。 何度手を上下させても、絶頂に達することができない。 辛くて、でもどうしたらいいか分からなくて咲夜は無性に悲しくなってきた。 「あっ!」 ぐずぐずと涙を流しながら自分自身を擦っていると、携帯電話が着信を告げた。 こんな時に電話に出れるはずはないけれど、着信音から大好きな人だと言うのは分かっている。 「っも、もしもしっ」 「…咲夜?学校から帰ってきたのか?」 「う、うんっ…んっ」 慌てて電話に出たため、下着をあげることも、ズボンをはくことも忘れていた。 勢いよく立ち上がった咲夜の後孔から愛液が垂れ落ち、太ももをひんやりと濡らす。 「シンガポールに着いたところだ。急な予定で悪いな」 「大丈夫だよっ」 本当はすぐにでも戻ってきて欲しい。 発情期に入ってしまうから、あなたが必要なんだと伝えたら飛んで帰ってきてくれるだろうか。 「っ!あっ、んっ」 声を聴いているだけで身体がどんどんと熱くなり、膝ががくがくと笑い出した。 自分を触っていたなんて知られたら嫌われちゃうんじゃないかと咲夜は恐かった。 「咲夜?発情しているのか?」 「あっ、わっ、ち、ちが、違うっ」 「咲夜、違くないだろう?」 お腹に響くようなハスキーな声が電話越しに伝わると、咲夜は自分の先端から精液があふれ出るのを感じた。 「あっ、だっ、んっ、だって、だって」 「一人で何とかしようとしていたのか?」 「…なかったんだもん」 「うん?」 「だって、伸弥さん帰ってきたらいなかったんだもん!僕のせいじゃない!」 いたずらが見つかった幼子のように、咲夜は大声を上げた。 自分がやっていたことが良いことか悪いことかなんてわからなかったけど、恥ずかしくて消えてなくなってしまいたいと咲夜は思った。 「一人でできたのか?」 「で、できなかったのっ」 「俺が出張なんて行ったせいだな。手伝うから一緒にやろう」 「一緒に?」 「ああ、俺の言うとおりにするんだぞ…」 「う、うんっっ」 「まだ、制服か?」 「んっ、うん…せ、制服着てソファーに座ってたのっ」 「そうか、一人でやってみたんだな?」 「でも、できなかったぁ」 涙声の咲夜に伸弥は優しく話しかけてくれる。 できないことがあっても、失敗をしてしまっても、絶対怒らないこの人のことが大好きだなと咲夜は思った。 「咲夜、右手の親指と中指で輪っかを作ってゆっくり動かせるか?」 「それ、自分でもやったもん」 「そうか、いい子だな。咲夜、俺の声をしっかり聴いて指を動かしてごらん」 「んっ、あっあっ」 一人でどんなに擦ってもこんなに気持ちよくならなかったのに、携帯電話から響いてくる声を聞いただけで、ありえないくらい身体が火照り、後孔からはトプトプと愛液が溢れ出す。 「あっんっ、伸弥さんっ、ん、ぬめぬめするのっ」 「上手だな、咲夜。そのまま、先っぽを触ってごらん」 「ひゃっ、あっ、んっ、む、むりっ。でちゃうっ」 「気持ちいいな、咲夜。そのまま円を描くように撫でてごらん」 「ひゃっあぁッ」 耳から伝わる声のせいで、身体の芯から溶けてしまいそうな不思議な感覚に陥る。 大きく開いてソファーの上にのせていた両脚はがくがくと震えていた。 気持ちいいけど、このまま続けたらおかしくなっちゃいそうで、恐い。 恐いけど、上手だと褒められ、大好きな声で指示を出されば言われた通り手が動いていった。 「んっ!ひゃっあっあっあっ」 「もうすぐか、咲夜?いい子だ。愛してるよ」 「でちゃうっでちゃうっの、助けてっ、やぁぁぁぁ!!」 . . . 冷静になると、独りぼっちで何をやっているんだろうと、余計寂しくなってしまったが、伸弥の声を聴きながら咲夜は絶頂に達することができた。 このことでエネルギーを使い切った咲夜は、電池の切れた人形のようにパタリと眠ってしまい、手に握られていた携帯電話は繋がったままカーペットの上に転がっている。 「咲夜?咲夜?まだ聞いてるか?朝一番の飛行機で帰るからな」 誰よりもカッコいい(つがい)の声がそう呟いた気がした。
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