44人が本棚に入れています
本棚に追加
/127ページ
しばらく眼を閉じていた阿梨はやがて瞼を開け、嘘だ、とぽつりとつぶやいた。
「悟ったようなことを言っているけど、本当は嘘だ。夫と子供たちと、もっとずっと一緒に生きたいに決まっている!」
心の底から、ほとばしり出る言葉。
「阿梨……!」
勇駿は椅子から立ち上がり、枕もとにひざまずくと阿梨を抱きしめた。阿梨もまた勇駿の首に腕を回す。
咳払いする音が聞こえてきたのは、その時だ。
あわてて体を離してドアの方を見ると、勇仁とムジーク医師が立っていた。手に往診鞄を持ち、白い上着を着た紳士だ。
「失礼。ノックしたのですが、返答がなかったので入らせてもらいましたぞ」
再度咳払いをしてから、ムジーク医師は阿梨が横たわる寝台に歩み寄っていく。
その後をついていく勇仁は勇駿に向かって、
──病人相手に何をやっておる?
とばかりに非難のまなざしを向けてくる。
最初のコメントを投稿しよう!