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そのまま意識を失った阿梨を勇駿は両腕で抱き上げた。
「とにかく部屋に連れていって休ませます。父上はムジーク先生を呼んでください。勇利は一緒に来てくれ」
ムジーク先生とは梨華の怪我を診てもらっている、腕のいい初老の医師だ。
わかった、と勇仁は答え、使いの者を探すために食堂を出ていった。勇利は母を抱えた父につきそい、船の通路を歩いていく。
父母の部屋のドアを開け、勇利が寝台の掛け布団をめくると、勇駿はそっと阿梨の体を横たえた。
意識はまだ戻らない。血の気の失せた顔を見つめながら、勇駿は唇を噛んだ。
疲れがたまっているのかもしれない。ここのところ、あまりに色々なことがありすぎた。
花嫁となる王女を乗せた航海。寄港地のフローレスでは子供たちが誘拐され、大立ち回りをやる羽目になった。それからアディーナ姫をかばった梨華の怪我……。
長として、母として、阿梨の心労は誰より大きかったはずだ。
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