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波の音がする。繰り返し、果てることなく。
どこの海だろう。甲板には水軍の者たちが居並び、皆、沈痛な表情をしている。女たちの中にはすすり泣いている者もいる。
遠い記憶の中、阿梨は思い出した。これは母の葬儀の時だ。
母の真綾は阿梨が十三の時に世を去った。母の遺体は一族のしきたりに従い、水葬にされた。
こらえようしても涙があふれる阿梨の肩に手を置き、勇仁が静かに告げる。
──嘆くことはございませんぞ、姫さま。われら海に生きる者は、いつかは海に還るのですから。
そう話す勇仁の頬にも涙が光っている。
母の亡骸は真っ白な布に包まれ、たくさんの花々と共に、ひっそりと海の底に沈んでいく。
思わず甲板の縁に走り寄り、阿梨は唇を噛みしめ、ただその光景を見つめ続ける。
そして群青の海に母の姿がすっかり見えなくなったところで、ふっと眼が覚めた。
「……勇駿……」
ゆっくりと名を呼ぶ阿梨に、勇駿が歓喜の声を上げる。
「阿梨!」
枕もとに座っていた勇駿はかがみこんで阿梨の手を握る。
「よかった、気がついて」
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