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寝台から上半身を起こした梨華の背にクッションを当て、白い大きなナプキンを広げる。盆からカップを持ち上げ、慎重に手渡す。
「熱いから気をつけてね」
梨華はそれを受け取り、こくりと飲むと、次はパンの載ったお皿を取ってもらう。
勇利は手際よく妹の食事の手助けをしていったが、やはり母のことが気になって仕方ない。
「兄さま」
「え?」
ふと見ると、梨華が間近で自分の顔をのぞきこんでいる。
「今朝は何だか変ね。そわそわして心ここにあらず、って感じ」
「べっ、別にそわそわなんて……」
してないよ、と言おうとする勇利をさえぎり、
「兄さまは嘘が下手ね」
妹の鋭い指摘にうっと言葉につまる。
「あたしを騙そうとしても駄目よ。生まれた時から一緒にいるんだもの、すぐにわかっちゃうわ。自分で気づいてる? 兄さまってね、嘘つく時、眼をそらしちゃうのよ」
「……」
何と返答してよいか迷う兄に、梨華は得意げに笑う。
「きっとあたしの方が嘘をつくのは上手いわ」
「それ、全然自慢にならないよ」
いささか呆れ顔の兄に、梨華は真摯な瞳を向けた。
「本当のこと教えて。どうして今朝は兄さまが来たの? 母さまはどうしたの? ……何かあったの?」
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