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「いかがされましたかな、奥さま」
初老の医師は穏やかに問いかけ、脈を診ようと阿梨の手を取る。
そこで、医師は三度目の咳ばらいをした。
「申し訳ありませんが、男性は外に出ていただけますかな」
夫である勇駿はともかく、勇仁までがこの場にいては診察ができない。
「あ、ああ、そうですな、では部屋の外におります」
勇仁はやっと状況を理解し、そそくさと勇駿を連れて部屋を出る。
二人は無言でドアの前に立ち尽くしていた。時間がひどく長く感じられた。
ふと廊下の向こうで足音が聞こえた。
同時に足音のする方に視線を向けた二人は、そこに勇利に支えられ、白い寝間着姿のまま、おぼつかない足取りでやって来る梨華を見つけた。
「梨華、駄目じゃないか、寝ていなくちゃ」
よろけそうになる梨華に、勇駿は急いで駆け寄る。
「ごめん、父さま。やっぱり梨華には見抜かれちゃった」
身をすくめる勇利に、気にしなくていいよ、と父は声をかけた。
梨華は学問は苦手でも勘が良くて利発な娘だ。根が素直で正直な勇利では太刀打ちできないだろうとは思っていた。
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