第二章 昔話

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 魚が釣れる度に上がる歓声と笑い声。宮殿の奥深くで育ったアディーナ姫にはすべてが珍しく、驚きと共に見つめるのみである。  大鍋の魚が煮えた頃、汁と共に木の椀によそられ、ひとりずつ配られる。  アディーナ姫のもとへも梨華が神妙な顔つきで運んでくる。 「あの……アディーナ姫さま、お口に合うとよいのですが……」  礼を述べて、少女がおそるおそる差し出す椀を受け取り、木のさじで口へと運ぶ。  ひと口食べると、アディーナ姫はにっこりした。 「美味しいですわ」  いたって簡単な料理なのだが、心地よい潮風のせいだろうか、宮廷のどんな豪華な料理にも負けない気がする。  固唾を呑んでアディーナ姫の様子を見守っていた梨華は、姫が微笑む姿に、自分も顔いっぱいに笑みを浮かべた。 「あ、魚の小骨にはお気をつけくださいね」       少女はそう言って姫のそばに座り、自分も兄が持ってきてくれた椀から食べ始める。  アディーナ姫は海風に長い金髪をなびかせながら、甲板の人々を見渡した。  この船の人々は何と大らかで楽しげなのだろう。   身分も立場も関係ない。同じ鍋の料理を分け合い、ここでは等しく皆が海の民なのだ。  考えてもみなかった。このような世界があることを。  初めての航海の日々は、砂漠の国の姫の心に新鮮な驚きをもたらしていた。
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