月影のダリア

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「今夜は泊まって行けばいい」 アレクサンドル エミネスクのその言葉に娘のダリアは驚いて思わず隣に座る母親の顔を見た。 すると母ロレナは無言で頷きながら優しそうに微笑んで来た。 「ありがとうございます」ダリアの恋人のルカ モルドバンが応える「しかし、こんなに美味しいディナーをご馳走になった上に泊めて頂くなど図々し過ぎます。時間もまだ早いですしバスも電車も充分間に合いますので…」 「おや、もうお帰りになるおつもりですか?私はまだ君と飲みたい気分なんだが…。この地域の特産のワインでもご一緒にいかがですか?近頃、市中で出回ってる様な万人受けのする安っぽい物とはひと味もふた味も違う絶品を是非とも君に味わってもらいたい」 アレクサンドル エミネスクの口調には穏やかな中にも決して抗うことは許さないと思わせるだけの迫力があった。 「いえ…、喜んでお相手させて頂きます」ルカ モルドバンが緊張した面持ちで応える 「ダリア、私の書斎にワイングラスを2つ持って来てくれ」アレクサンドルは椅子から立ち上がりながら言う「じゃあルカ君、ついて来なさい」 父親の後に続いて部屋を出て行く恋人に向かってダリアは声には出さず口の動きだけで「がんばって」と言うと、小さく手を振り微笑んだ。    
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