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☆
「これに懲りたら、無闇矢鱈と人に声をかけるのはやめるんだな」
『ひいい、ごめんなさいいぃ』
龍神さまのお陰で郁と魁斗はすぐに見つかった。2人とも別の場所で気絶していたらしい。暗闇の中無闇矢鱈に逃げたせいで、2人とも泥だらけで、所々擦り傷ができているが、特に何ともなかったので、佑太と夏は安堵のため息を吐いた。
しかし、郁の側には旧佐和山隧道で声をかけた幽霊が付き添っていたそうで、ただ今龍神さま直々の説教の最中である。
「そもそもお前は、城に居着いた霊の類であろう。なぜこんか所にいるのだ?」
女の幽霊は、血の滲む着物を着ており、結いあげた髪はボサボサ。場所を抜きにしても、かなり怖ろしい出で立ちだ。
『……です』
「ん?」
『えっと、ここ……と思い、まして』
「声が小さい!!」
『ひぃぃ』
怖ろしい出で立ちとは裏腹に、女の幽霊は龍神さまの気迫にタジタジで、見ていて可哀想になってくる。
『こ、こんな所に入って来てどうしたのかなってぇ!ちょっと注意しようと思っただけなのよぉ!わたし、別に脅かそうとかじゃないのよぉ!散歩、散歩してただけなのよ〜!!ま、まあ、あら?イケメンがいるわ、なんてそんな事は考えてないの、ホントよ?』
幽霊が開き直った。佑太にはそう見えた。また、郁の側にいた理由もわかった。
「あの、佑太くん、どういう状況?」
困ったように笑う夏が訊ねる。それもそうだ。助けを求めて佑太に電話して。その友人はものの3分で空から降って来たのだ。ちなみに龍神さまは着地の寸前で人の姿を取り、かつ風圧で顔を庇っていた夏は、月明かりに輝く白銀の鱗をもつ龍神さまの本当の姿は見ていない。
佑太は返答に悩んで頬をかいた。
「友人が心配だという佑太に、1人じゃ危ないから大人の僕が付いて来てやったのだ」
そこへ、幽霊を追い返した龍神さまがやって来て、尊大な態度で腕組みをしながら誇らしげに言う。
「子どもが夜に1人ではあぶないだろう。保護者としては当然の行いだ」
「別にあんたは保護者じゃないでしょうよ」
「なに、目上の者が下の者の面倒を見てやるのは当然だろう」
フフン、と鼻息も荒く龍神さまは笑う。
目上というか格上というか。どうしようこの神さま。
「あの、ありがとうございました」
改まった態度で礼を言う夏。夏にはここまでの経緯はよくわからなかったが、2人が助けに来てくれた事には感謝していた。
「お前に礼を言われる筋合いはない。たかが人間の子が何人か消えようが僕には関係ないからな」
突き放すような目で言い放つ。ギロリと睨む瞳は、何処か爬虫類のように鋭く、夏は怖ろしいと感じてしまった。
「ま、まあ、なんともなかったしいいじゃん!さ、帰ろう!!」
これ以上龍神さまが酷いことを言う前にと佑太は焦る。
「僕、皆んなが起きるまで待ってるね。自転車もあるし」
「ん、そうだな。じゃあ先に帰るよ。寄り道すんじゃねえぞ!」
「あはは、しないよ。佑太くんもありがとうね」
おう、と返し佑太は水野と並んで歩きだした。最後に振り返り、もう一度手を振る。
暗い雑木林を歩く途中、唐突に水野は切り出した。
「佑太、わかっていると思うが、これは依頼だからな」
「え、じゃあ」
「依頼料、楽しみにしている」
「マジかよ!?」
龍神さまは不敵に笑う。方や佑太はオロオロと、今の貯金額を必死で計算するのだった。
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