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☆
期末テスト終了。本日終業式。
結果はまあまあ。佑太の友人たちも、ちなみに佑香も夏休みの補修は免れた。
一番危なかった郁も、なんとか赤点にはならず、終業式も終わり昼に帰宅した佑太は、『めし屋』にて龍神さまと昼食を摂っていた。
「水野さん、いい酒が入ったんだが今晩どうだい?」
厨房から顔を出す父親は、年季の行った厳しい顔に笑顔を浮かべている。
「そうだな、ありがたく戴こう」
「んじゃ何時もの時間に」
「ああ」
佑太の父親曰く、「隣の淡海堂の店主、若いのにいい飲みっぷりだ!気に入った!」なのだそうだ。最近は22時あたりから、近所の常連も交えて晩酌をする仲らしい。
知らないとは言え、毎晩うちで龍神さまが酒盛りをしているなど、考えるだけで恐ろしい。
「ゆーたぁ、飯食った?」
昼食を食べ終え、冷たい麦茶を飲んでいるといつものメンバーである郁、魁斗、夏がやってきた。
「おう、ちょうど食べ終わったとこ」
「んじゃ行こうぜ」
4人は久々の自由を満喫しようと、約束をしていたのだ。
「どこにいくんだ?」
ここで空気を読まないのはやはり龍神さまで。不機嫌そうに佑太の腕を掴む。
「あー、友達と遊びに行くんですけど」
「僕をおいて?」
「は?」
途端に捨てられた哀れな子犬のように見えるのだから、神さまはほんと不思議な存在だ。
「そんな顔されても、なあ」
と周りを見回せば、父親は厳しい顔をしているし、周りの常連客は佑太を睨んでいるし。
「良かったら一緒に行きます?」
なんて夏が言うものだから、龍神さまは満足そうな表情を浮かべる。
「だそうだ」
「はいはいわかりましたよ」
ここに佑太の味方はいない。そう実感したのだった。
☆
男子高校生が4人集まれば、やることなんてほとんど同じだ。
「いやー、やっぱ釣れないなあ」
「そりゃ郁が下手なだけだろ」
「っつー魁斗だって全然じゃん」
釣竿を振り回す郁と魁斗。誰が見ても釣れるはずがない。
「もー、みんなじっとしてよ!」
夏はこういうジッとして待つアクティビティが得意だ。それは単に一番辛抱強くて、気長であるためだ。
「あの、楽しいですか」
戸惑い気味に夏は、先程から隣に座る水野に声をかける。
「ん」
皆んなで芹川で釣りをしようという事になり、それぞれ釣竿を持ち寄っていつものスポットでそれぞれ釣り糸を垂らす。かれこれ1時間。
何故だか夏の隣から離れず、しかし話しかけても「ん」しかいわないので、温厚な性格の夏も少し困っていた。
頼りの佑太は、ジャンケンで負けてコンビニに飲み物とお菓子を買いに走って行ったままだ。
「水野さんは、普段なにしてる人なんですか?」
何度目かの質問。どうせまた答えてはもらえないと思っているから、返事は期待していない。
「万屋だ。わかりやすく言えば、報酬さえもらえればなんでもする便利屋」
まさかのまともな返答に、夏は急いで会話の続きを考える。
「あっつー!ほら、買ってきたぞ」
夏が言葉を発するよりも先に佑太が戻ってきた。
「おっせーよ!」
「うるせえ!地味に遠かったんだよ!」
郁と魁斗に飲み物を渡し、夏と水野のもとへやってくる。
「夏はオレンジジュースだよな」
「うん。ありがと」
「いいよ。龍さんは……コーラですよね」
「ん。なんだ?」
「こういうの飲むんだなあと思いまして」
佑太と水野の関係は、側から見ている夏にはどこかチグハグに見えた。
とても親しくしているようで、それでいて一定の距離感がある。
例えるならば、平社員と会社社長だ。平社員は会社社長を親しみを込めつつ敬い、そんな平社員を我儘をいいつつも見守る会社社長。
補足をするならば、夏には歳の離れた姉がいる。姉は腐女子であり、夏は英才教育を受けて育っている。
と、余談はさておき。実際のところはこうである。
「あの、龍さん、退屈なら帰ってもいいんですよ」
「退屈ではない。そんなに僕が邪魔か?」
「いやいやいやそんな事ないっす!」
「だいたいお前たちはこんなにちまちまと魚をとって楽しいのか?」
「まあそれなりに。そういう遊びだし」
「魚が欲しいなら僕が獲ってやるよ」
「あ!え?魚が寄ってきてる!?って辞めてくださいお願いします!!」
龍神が龍神の力を使って摩訶不思議な現象を起こさないように気を使っているだけである。
「僕は水の神だ。これくらいできて当然」
「って、ちょ、水を飛ばさないで!」
バシャーン。
派手に水しぶきが上がる。ずぶ濡れで尻餅をつく佑太。
「何やってんだよ!」
「びしょ濡れじゃん」
と言って、釣りは何処へやら川に飛び込む郁と魁斗。
それを眺め、優しく笑みを浮かべる水野。
やっぱり水野さんってよくわからない人だなあ、と夏は思う。
しかしそんな事は今はいい。自分もみんなに混ざろうと、夏は釣竿を放り出して駆け出す。
佑太が仲良くしている人だし、全然大丈夫。
夏は佑太達が好きで、その他の事は気にならない。
だから、次に水野に会う時、まさかあんな事になるなんて。
その時の夏には想像もできなかった。
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