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★
人は何故、心霊スポットに行くのか。
様々な噂を聞いたり、その場所の過去の出来事なんかを調べたりもして、怖いところであることがわかっていても、人はそういった場所へと繰り出す。
好奇心。見栄。興味。暇潰し。
人は姿の見えないモノを恐れながら、しかし同じくらい強く興味を持つ。
或いは八百万信仰も、本質は同じなのかもしれない。
得体の知れない現象を恐れ、それらに名前を付けて崇め奉る。
誰かがそれに名前を付け、広まっていくと。
それらはその場所から離れられなくなってしまう。
神が神としてあるのは人々がそう願ったからであって、最初から神として産まれたわけではない。
同じように、何かしらのきっかけはあったにしろ、人々がそう望んだからこそ、怪異は、その場所にあり続けるのかもしれない。
☆
8月。
例年通り今年も猛暑らしく、『めし屋』の夏限定メニューかき氷は、なんの変哲も無いただのかき氷のクセによく売れる。
「うめー」
「だな」
郁と魁斗は暑さにやられたのかやつれた顔でかき氷を頬張っていた。
「やっぱりかき氷って美味しいよね」
方や夏は笑顔でイチゴ味のかき氷を食べていて、只でさえ小柄で幼く見える外見に拍車がかかっている。
佑太は友人3人がかき氷を食べる姿を横目に、店の手伝いに精を出している。お昼時は忙しいため、佑太と佑香は交替で手伝いをする事になっており、本日は佑太の番。お昼時のピークが過ぎれば終わりだ。夕方は佑香が手伝いをする事になっている。
つまり、今日は4人で花火でもしようかと集まったわけだった。
「佑太、そろそろ上がっていいぞ」
客足も落ち着いたあたりで、厨房から父親が顔を出した。
「わかった」
佑太はもう一度客席を見て回り、住居スペースへ続く階段へと消える。
「よくやるよなー」
だらけた顔の郁が言えば、魁斗もうんうんと頷く。
「あれはもう四代目継ぐ気だな」
「いやでも佑香ちゃんが継いだ方が客受けはいいんじゃね?」
「確かに」
「ちょっとそれひどいんじゃないかな」
真面目な顔で話す2人に、夏は苦笑いだ。
「よ、おまたせ」
そこへ着替えた佑太がやってくる。「おつかれー」とそれぞれ適当に声をかけて、4人は『めし屋』を出る。
「んでどうする?花火っても、まだ15時か」
郁が腕時計を見て首を傾げ、
「とりあえず本屋に寄っていいか?」
と、魁斗が提案。他に意見もないため、4人は自転車に乗って本屋へ向かう事にした。
『めし屋』のある商店街にも本屋はある。しかしヨボヨボのおじいさんがひとりで経営しているような寂れた本屋だ。
だから必然的に本屋へ行くとなると、駅前の商業ビルへ向かう事になる。
一応国宝を有する街の駅だから、夏休みともなれば観光に訪れる人が結構いて、駅前のロータリーは賑やかだ。
4人は自転車を止め、商業ビルの中へ入る。
「あー涼しい」
「生き返るわ」
佑太と郁がビル内の冷気に癒されていると、魁斗はさっさと参考書を探しに行ってしまった。残された3人は、隅に設置されているベンチに腰を下ろす。
「魁斗くんはすごいよね」
夏が感心したように呟く。確かに、と佑太も思う。
「もう大学決めてんだっけ」
「みたいだね。僕たちと遊んでるのに、ちゃんと勉強もしてるみたいだし」
「オレなんて高校入れたのが奇跡みたいなもんなのに」
「郁くんも頑張ってたじゃん、そりゃ多少の運もあったかもしれないけど」
「うっ……夏は意外に毒舌だよなぁ」
4人が通う高校は進学校だ。魁斗のように、一年の今からもう既に大学に向けて勉強を始めている生徒は珍しくない。
「今は今しか楽しめないんだしさ、先のことは先のことで、まず今日の予定を考えよう」
爽やかに笑う郁。そりゃそうだと調子を合わせる佑太。
「んで、オレから提案なんだけど」
ニカッと爽やかに笑う彼だが、こういう顔の時には大抵ロクでもない事を言いだすのだ。
「一応聞いておく」
「肝試しに行こうと思う!!」
やっぱり、と思ったのは夏も同じようで、引きつった愛想笑いを浮かべ返答に困っている。
「先輩に聞いたんだけどさ、佐和山トンネルでオバケ見たってさ」
「それ有名なとこだよな」
「そ、ネットとかでも出てくる」
佐和山トンネルは国道にある普通のトンネルである。昔、佐和山の上に城があり、その城は関ヶ原の戦いの際に悲惨な末路を迎えたとかなんとかで、心霊スポットとして有名なのだそうだ。が、佐和山城の悲劇と、佐和山トンネルで目撃される幽霊は関係がないとも言われ、地元でも謎である。
「いやでも心霊スポットって、軽々しく行くようなとこじゃないだろ」
「あれ、佑太ならノリノリで行くっつーとお思ってたんだけど」
意外そうな郁に、佑太もまた微妙な反応を返す。
だって、隣の龍神さまが怒りそうな案件だから、なんて言えない。この間の不機嫌丸出しの龍神さまが頭をよぎり、怒らせたら喰われるのでは、と佑太は背筋が凍る思い出である。
「魁斗は心霊スポットとか行きたくね?」
ちょうど戻ってきた魁斗は、お眼鏡に叶うものが無かったのか手ぶらのままだった。
「心霊スポット?」
「そ、佐和山トンネル」
「ああ、あそこか。行ってもいいぞ。どうせ幽霊だのなんだのなんて存在しない」
現実主義な魁斗は、さほども考えることなく答える。
「夏はどうだ?」
「僕はみんなが行くなら行くよ」
小柄で可愛いタイプと揶揄される夏も、その中身は意外と頼もしい。それに多分、この4人の中で一番好奇心が強い。
だから、心霊スポットに行く流れになる事は、佑太は既にわかっていた。それでも一応止めなければと焦る。
「本当に何か起こったらどうすんだよ?」
苦し紛れにそう言えば、
「全力で逃げる!」
などと呑気に返されたてしまい。佑太は諦めのため息を吐いた。
実際、佐和山トンネルでの霊の目撃証言は少ない。それに国道沿いの明るい場所であるし、車の通りも多い。なにも廃村に入り込んだり、森の中に分け入っていくわけでもない。
しかし、佑太自身が行くかというとやはり躊躇いが生じる。龍神さまと知り合い、佑香が雨降小僧に付きまとわれ酷い目にあった。怪異は確かに、しかもすぐ側にあったりするのだ。
「んじゃ行ってくれば。俺は辞めとくよ」
「えー!?マジかよ!!高校生のイベントだろ。本当に行かねーの?」
「行かない。3人で行ってこいよ。後で感想聞かせてくれよ」
「わかったよ」
心霊スポットへは暗くなってから行くそうで、とりあえずこの話は一旦やめ、4人は暗くなるまで一番近くの夏の家でテレビゲームをしようという事になった。
1人だけ行かないと言っても、しつこくしたりバカにしたりしない友人。佑太はこの関係がとても大切で、有難いと思うのだった。
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