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情けないことに腰が抜けてしまった私は、チームの功労者、8番のゼッケンを付けた柏田先輩の背に負ぶわれて球場を後にした。
呆然としたナインと控え、監督の中、柏田先輩だけが現実にしっかりと足が付いていた。
「なーんか、腹減ったっすね」
「そーだな。昼だからな」
監督は苦笑いして頭をかいた。彼が以前に言っていた「天然のアホ」とはまさにこの柏田先輩のことだと分かった。
勝利の喜びというより、全員が天然センターに度肝を抜かれてぽかんとしながらバスに乗り込む。
「今日の勝利は、みのりんのおかげだな。ありがとっ」
肩越しに振り返ってにっこり笑ってくれた。思えば普通に話したのはこれが初めてかもしれない。細身に見える彼の背中は筋肉で硬く、「強打者」に相応しい力強さがあった。
「意味が分かりませんが」
「あの冷えたタオルで助かった」
そして私を負ぶったままバスに乗り込み、ゆっくりと降ろしてくれた。
「よーし! じゃあマネージャーの隣の席ジャンケンするかー」
おおおっ!
そこでようやく部員たちが元気になった。うーむ、意味不明。
「いくぞぁーーーっ!」
最初はグー! ジャンケンポン!
部員たちの全力ジャンケンが始まる。昼過ぎの太陽に負けないくらい気合いが入っていた。
なんていい人たち。腰を抜かして失態を晒した私を和ませようと必死だ。
そして、漫画のネタをしこたま与えてくれる。
ありがとうございます。一つでも多く勝って、イケメンな姿をメモさせてください。
準決勝に向けて、明日からは合宿だ。
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