夏合宿と水着

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調理場に荷物を置くと、先輩は「じゃあ俺、戻るわ」と出ていこうとした。 「あ、それで、その。と、泊まらないんだよな?」 「泊まるわけないじゃないですか。うち近いし」 というか、そういう問題ではない。 球拾いやグラウンド整備、ドリンクとプロテインを準備している合間に取ったメモを、何としてでも夜のうちにネタ帳に整理しないといけない。 今日も皆さん、カッコ良かったです。柏田先輩のフリーバッティング、フェンス越えを連発。それを拾ったのが私です。拾っている最中にも、菅野キャプテンの柵越えが飛んできて頭に当たった。後でヘルメットを買いに行く予定だ。 「……だよな。男ばっかだしな」 千葉先輩はそう言って今度こそ出ていった。……ハッ。泊まったら、彼らが寝ている間に寝顔のスケッチができるかもしれない。いや、それは難しい。暗くしてある部屋だし。いやでも、へルメットにライトをつけてそっと観察すれば……。 不毛なことを考えていても仕方がない。私は目の前の野菜と肉を前に腕まくりをした。 合宿前からも監督に言われ、一年間とにかく体づくりに励んだ彼ら野球部員。そして共同生活によってそれは一層よく管理される。 母と決めた献立を監督に見せ、少し調整したメニュー。運動選手はこんなにも炭水化物やタンパク質を摂取しないといけないのかと驚いた。 マネージャーと部員との恋、というテーマでストーリーを作るんだったら、このレシピは貴重な資料として大切に保存しておかなければ。 あり得ない量の野菜を刻み、あり得ない大きさの鍋でカレーを煮込む。おおおお、小人になった気分! これもきっと、将来漫画を描く助けになるに違いない。そう思わないとやっていられない。 魔女になったつもりで「イーッヒッヒッヒ」と笑ってみたり、アニソンを歌いながらノリノリでかき混ぜていた。
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