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「監督を支えてくださる方はいらしたんですか?」
「えっ? ……どうした、ヨダレが垂れてるぞ」
「あっ、汗です! 口から大量の汗が。……ではどこがどう変わったのでしょうか」
「うーん、そうねえ。選手を適材適所に配置したってとこかな」
監督がそう答えると、10人の部員たちがこちらに視線を投げていた。数人が指差してきて「監督、カッコイイー!」「ヒュー!」と冷やかしている。それに対し、監督は堂々のVサインで応じた。
私は走っていく部員を目で追っていたが、気を取り直してペンを握りなおした。
「赴任してきたとすれば四月、ですか? 三ヶ月でそんなに変わるものでしょうか」
「いや、去年。正確に言うと、前回5月に地区予選で負けてから」
「ははあ、既に選手との信頼関係ができているわけですね」
メモメモ! ここは大事だわ。うーん、じゃあどこからストーリーを始めたらいいかなあ。
監督からは女性の匂いがしない。
選手の方には使えるキャラクターがいないだろうか。
「具体的には何をなさって『適材適所』を見極めたんですか?」
能力の高いイケメンの情報を!
喰いついてくる私に彼は丁寧に応対してくれた。
「まずは100メートルのタイム測って、出来るだけ足の速い選手を外野に置いて。あと球速を測って。それから面談だな。性格診断したの」
「性格診断?」
「そう。ポジションには向き不向きがあるから。例えば……」
監督は選手を遠目に見て笑った。
それはまるで自分の子供たちを見る父親のような、優しくて誇らしげな瞳。
「うちの外野手は、足が速い天然のアホと気の抜けたサイダーみたいなゆる〜い奴ら。で、ピッチャーは迫力あるヤンキーみたいなヤツ。内野手はガッツある奴らとなっております」
うーん、やっぱり「野球部」となるとストーリーの人数的に多い。ピックアップして主人公級に出来るのは、その「ヤンキーみたいなピッチャー」だろうか。
私が一人で思案していると、監督がこちらの顔を、含みのある笑顔で覗き込んできた。
「時間あるなら、練習見ていく?」
「あっ、いえいえ! 邪魔になりますから!」
「邪魔になんてならないよ。女の子が見てってくれたら、アイツら頑張っちゃうから」
私のような地味でオタク系の女子を女子として見てくれるとは思えないけれど。
とにかくそう言って監督は低いブロック塀に立て掛けてあるパイプ椅子を私のために開いてくれた。パイプ椅子は直射日光を受けてはいないものの、外気で熱くなっていた。
「君、熱心だから。何か気づいたことでもあったら教えてね」
「滅相もございません!」
監督は笑うと、サングラスを掛けて走り込みを終えた選手たちの所に歩いていった。
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