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「それが、みのりんの水着なのか?」
「そうですが」
全員の視線が、私の頭から足先までジーッと見つめる。
「それ、なんて言う種類の水着?」
「フィットネス水着です」
明らかにテンションが下がった。
真っ黒な上下。膝上ロングタイプのパンツに半袖シャツ。側面に赤いラインが入っている。
「ラッシュガードだな」
西郷西木先輩がぼそりと呟いた。
あまりにもガックリ肩を落とす様子に、私は両手の拳をギュッと握って、火照った顔を上げた。
「あの、実は……」
「みのりん、まだ海入ってないだろ? ちょっと遊ぶ?」
空気を読まない柏田先輩。言おうとしたことがウォータースライダー並みに喉の奥に引っ込んでいった。
まだ食事には早いしせっかく誘ってくれたので、監督の許可の下少し遊ぶことにした。メガネを置いて、ぼんやりした景色の中海に向かった。サンダルを脱いで砂浜を足の裏につかむ。まだ熱い砂を指先に感じて気持ちがいい。
ヤマネコ兄弟たちもワッと沸いて海に駆けた。
波打ち際に行くとそれが急に冷んやりした。足の裏には時々貝の硬さなども感じる。久しぶりに浸かった海は温かかったが、奥に行くにつれて少し温度が低い。先には既に柏田先輩が待っていてくれて、多分両手を差し出してくれている。彼の所に行く辺りで急に深くなって、「わっ」と声を上げると腕を掴んで支えてくれた。
見上げると、明るい笑い声が聞こえる。
「メガネなし、可愛いじゃん」
「えっ、あ」
「よし、抱えるぞ」
「へっ?」
そう言うや否や、柏田先輩は私をお姫様抱っこした。
「そーらっ!」
その掛け声と共に、宙に投げ飛ばされた。
見えたのは夕暮れが近いオレンジの空。その中で滑空する鳶の声。夕日に逆光になった灰色の雲。
映像が止まった後、急に水中に落ちた。
ギュッと瞑った目を恐る恐る開くと、キラキラした砂の粒が舞って、それが水の中に溶けて行くと優しい日差しが揺らめいていた。
ぽかんとその光景に見惚れていると、遠くからやってきた波が、一度沈んだ私の体を押し上げながら浜に打ち上げた。
「うわあ……」
私は呆然とした後、パッと起き上がり、また柏田先輩の元へいそいそと近付いて行った。
「もう一回、お願いします!」
「ははっ、楽しかったろ」
そしてもう一度抱えてくれた。
「ひゃあっ!」
今度は回転をかけてくれたので空と海が一回転した後、水中にダイブする。なんだか魚になった気分だ。
いちいち打ち上げられ、また柏田先輩の所に行く私は、なんだか小さい子供みたいだった。
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