夏合宿と水着

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「も、もう一回お願いします」 「しょーがねーな。じゃあ最後の一回」 私のワガママを聞いて先輩はもう一度私を横抱きにした。ワクワクして浮遊感を待つ。 「言っとくけど、みのりだけだからな」 「えっ?」 「他の子にはしないってこと。意味、分かってんのか?」 逆光になった先輩の表情はよく分からない。メガネを掛けていないので更に見えない。でも、私は急に自分のこの状況を理解した。 (上半身)裸の男のたくましい腕に抱かれている……! うわあっ……! た、大変だ! これは、どさくさに紛れて抱き着かなくては! そう思った瞬間、私の体はこれまでの中で一番高く遠く、ぶん投げられていた。 バーベキューは平原先輩と控えピッチャー橘先輩が中心になって焼いてくれた。私は先程のレジャーシートに座っていた。みんなに取り分けてあげようとしたのに、「休め休め」と座らせられたのだ。 パチパチと炭の()ぜる音。楽しそうに食事する部員の声に、自然と微笑んでしまった。 「ほら、みのりん」 忍者服部先輩がいい具合に焼けた肉の皿を持ってきてくれた。 「ハットリ先輩も座ってください」 「ん? んん」 大きながっしりとした体が隣に座る。 「合宿も終わりですね」 「そうだな。最後の夏休みにここまで来れて、合宿できるなんてな」 私は彼をじっと見つめた。こんなに喋ったの、初めて見た。 「去年まで弱小で、県大会に出ることもできなかったのに。不思議だ」 「……監督、凄い人なんですね」 「ああ」 服部先輩の口元に笑みが浮かぶ。初めて笑った顔を見た。 「入部の頃は上級生が多かった。でも二、三年が大喧嘩して、全員辞めた。残ったのが、俺たち七人。一年後に橘と双子が入部した」 七人の……サムライ。 いや、ちょっと言いすぎたか。
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