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「柏田くーん、頑張ってぇ!」
突然の声援に驚いて見ると、きゃー! こっち見た! とフェンスの向こう側で三人の女子が大騒ぎしていた。
ハッ!?
そこから恋物語が始まっちゃう?
ヒロインは初めは邪険に扱われるけど、何かのハプニングがあってヒーローと急接近とか。
いやいや、ヒロインはいつも学校帰りに足を止めて、フェンスの向こうの彼を見つめるだけにしよう。
自分を見ていると勘違いして、ヒロインに近づいた三塁手。でも女の子のお目当は捕手だったり。あ、その三塁手は女の子とクラスメートで、いつも二人は喧嘩してて……。
妄想を広げる私の前で、選手たちが素振りを始めた。その間を監督が通りながら指導する。折角なのでちょっと座って観察することにした。
ピッチャーとキャッチャーは向こうで投球練習。
視線を周囲に向けると、それぞれのバッグの上にタオルが投げられたり、グローブが無造作に置かれたりしている。
あーあ、汚い。そう思った時。
ビュン!
バットのスイング音にハッと顔を上げた。
一番近くでバットをフルスイングしている、背の高い男子。背番号は8番。ということはポジションはセンター。
彼の金属バットから快音が聞こえてきそう。風を切るスイング。私はノートを捲り、夢中で彼を描いた。
主人公、彼にする!?
ホームランを誓っていた女の子に、予告通り届けるの! それも逆転ホームラン! その帰り道のこと……。
ーーほら、約束だったろ?
ーーえっ!? 何よ……
ーーホームラン打ったら、キスしてくれんだろ?
おおおおおっ!
うおおおおおおおおおっ!
私が一人で萌え滾っていると、いきなり後ろから人の気配を感じた。
「うまいな!」
「ぎゃあああ!?」
慌ててノートを胸元に押し付けて隠す。振り向くと監督がにっこりと私に笑いかけた。
「見せて」
「だ、ダメです!」
「まあ、いいからいいから」
「嗚呼ぁ」
死守したノートはあっさりと奪われて、監督はそれを手に、私が模写していた選手の元に向かった。
私の絵を見ながら、二人は何やら話している。8番が振り返った。端正な顔立ちの彼の表情には驚きと好奇心が滲んでいる。
……ハッ! そう言えば、ノートにはあんなネタやこんなネタも書いている!?
嫌ああああ! 変態がバレる!
私は慌てて立ち上がり、彼らの元に走ってノートを奪取した。はあはあ、別のページを捲られる前に、取り返したぞっ。
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