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4回の表、柏田先輩が四球を選んで出塁するも後が続かずチェンジ。裏は相手校の攻撃で、ヒットと送りバント、センターフライでお手本のような一点を入れられた。
1対3。
五回の表の攻撃。粘りに粘るも三振に取られたところで、監督が千葉先輩に言った。
「千葉。お前は振るな」
「えっ?」
千葉先輩の表情が曇る。怖い! 下から睨み付けるとその三白眼でヤンキー度が3割り増しに!
掴みかかっていくかとハラハラしていたが、先輩は唇を噛んで頷いた。その回もスコアボードには虚しくゼロが並び、守備のために選手たちはグラウンドに向かう。
全然、誰も私を見ない。いつも通り私は背景になっていただけなのだが、避けられているような妙に不自然な無視のされ方に居心地が悪かった。
そして相手の攻撃はクリーンナップから。
テンポよく打ち取っていった。その最後の打者。
相手から球筋が読まれた。
完璧な当たり。スライダーを捉えた。金属バットの快音が鳴り響き、白球が大きな弧を描いてスタンドに入ってしまった。
「ああーっ」
橘先輩が思わず嘆いた。その彼の頭を、監督がすかさず軽く殴る。
「そんな声出すな。まだ終わってない」
ラストバッターを三振に取り、みんなが重い体で戻ってくる。
「マネージャー。タオル頼む」
私は監督の言葉にハッと顔を上げた。遂に出番が来た、凍らせタオル。今日は実は中にウィ◯ーインゼリーを隠しておいた。
カチカチに凍った栄養ドリンク。溶けたら飲めるという一度に2度美味しい仕掛けを作っておいたのだ。
冷たいものを手に部員たちを迎えようと立ち上がった時。
「あ」
突然目の前がグルンと回った。下になった右肩をコンクリートに打ち付けた痛みと共に見えたのはベンチの脚。
「みのり!」
驚いた声は、多分千葉先輩のものだった、と思う。
初めて名前呼ばれた。キュン。
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