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頭痛とめまいで朦朧とした意識の中、戻ってきたナインたちに囲まれているような気がする。メガネも落としたようでぼんやりとしか見えない。両目とも裸眼で0.1ないのだ。
怠い身体が引き起こされて誰かが肩を抱きかかえてくれている。
「熱中症じゃねえのか」
竹村先輩の声が前方から聞こえた。
「冷やせ! ほら、みのりんがいつもくれてるタオルあるだろ」
あ、だめ、それは部員の皆さんのためのもので……。私は誰かの腕の中で声を出そうとしたけれど言葉にならなかった。うう、頭痛い。こめかみにズキンズキン響く。その額に冷タオルが当てられると気持ち良かった。
口元にペットボトルが当てられ、少し甘い栄養ドリンクが注がれた。頑張って飲むけれど、口からこぼれたものが顎から首筋に流れて気持ち悪い。
「腋下も冷やさなきゃ」
これは双子がハモる声。すぐに私のジャージのファスナーが下されてしまった。
「うお!?」
明らかに動揺した複数の声。その声に思い出した。
ああああ、しまったぁ!
なんて事だろう。Tシャツは暑いので今日は悩んだ末にキャミソールにしたんだった。
「いやぁっ……」
貞操の危機。頭が痛かろうがめまいがしようが、ここはなんとしてでも隠さなければ。両腕で前を隠そうとすると、ファスナーが激しく元の位置に上げられ、ジャージの上から脇に氷が当てられた。
「み、見てねえから」
カミカミの千葉先輩の声が頭上から降ってくる。ああ、抱えてくれてるのは彼だ。ていうか、絶対見た。嘘つき。泣いてやる。
「今日は湿気てるからな。熱が籠もったのかも。医務室連れていくか」
平原先輩。
なんて情けない。グラウンドの熱の上にいたわけでもない私が倒れて、部員3人分の冷タオルを使ってしまって、おまけに医務室送り。
チームが負けている今、役に立たなければならないのに。
「あ、これ……。栄養ドリンク挟んでくれてたんだ」
西木先輩がタオルの中のゼリーに気づいた。ここで本来ならもっと盛り上がるはずだったのに、私を囲んで皆さんお通夜のように湿っとしている。
私の中肉中背の体を橘先輩が背負って医務室に連れていってくれることになった。
「すみません……」
「謝るなよ、みのりん。大丈夫だから」
さっき溜め息ついてたくせに、橘先輩は安心させるように言った。
ーー勝つぞ!
背中の方から、ナインの怒鳴り声が聞こえた。
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