47人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、みのり」
背後から声を掛けられて飛び上がった。
「そんなにびっくりすんじゃねえよ」
振り返ると、千葉先輩が顎をシャクって上から睨みつけてきた。
今日は決勝の日。いつもと同じように学校の駐車場に集合していた。朝日に温められたアスファルト。ずっと立っていたら目玉焼きになってしまいそうだ。
「もう大丈夫なのか? 記録係はみんなでできるし、今日は休んでも……」
「みのりん! おはよ!」
大声で千葉先輩を遮ったのは竹村先輩。今日も元気だ。黄色で流れ星でカレーライスだ。
続けてドヤドヤとやってくるナインたち。いつもと同じように外野陣はのんびり時間ギリギリに欠伸しながらやってきた。
「今日の試合だが、相手校にはあの西川がいる。変化球いっぱい持ってるからな、それで対策は……」
監督の言葉に、全員真剣な眼差しで頷きながら聞いている。士気は高まっている。もう、アレはいいんじゃないだろうか。
実は昨日、あれから眠れなかった。皆さんとのキスを想像して悶々としてしまったので、とにかく起き上がってネームを描き散らかしていた。でも気がついたらチューの絵を描いてしまっていた。不埒である。
大きな欠伸を手で隠した。ダメだ。私もちゃんと聞いていないといけないのに。
こういう時モテ子はどうするのだろうか。余裕で寝るんだろうな。キイッ、悔しい! お肌ツルリンプルリンで朝から輝く笑顔で挨拶するんだろうな!
存在しないライバルのモテ子に嫉妬する私。その時、監督が宣言した。
「今日ヒット打ったやつは、マネージャーの隣でイチャイチャしていいぞ。最優秀選手にはマネージャーからキスしてもらえるというビッグな賞がある」
しん……
静まりかえる車内。エンジン音だけが虚しく響いている。
全員監督を見たまま、固まって無反応。
あちゃー! もしやこれ、一番痛いパターン! 誰もマネージャーのチューとかいらねーよパターン!? 思い上がるのもいい加減にしろパターン!?
最初のコメントを投稿しよう!