夏の過ごし方

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「帰ります!」 血眼の目に驚いたのか、監督は一歩後ずさった。私は身を翻し、遅い足で全力疾走しながらグラウンドを後にした。 許すまじ! あの麦藁帽子! あの選手と同じクラスじゃなくて良かった。「俺を描いてたの? 気持ち悪ッ」て言われるところでしたわ! 因みに私は二年生。彼らが三年生で私とは関係のない棟の住人であることを祈る。 「ただいまあ」 家に帰り、直で階段を上って自室に行く。居間から母の「おかえり〜」の間延びした声が聞こえた。汗でドロドロ。気持ち悪い。一刻も早く制服を脱ぎたい。 私の部屋は、殺風景だ。学習机の上には、模写用の木の人形があるだけだ。もっともペンの種類は多いけれど、それは普通のボールペンではなく、漫画用に買ったGペンや丸ペン。 収納棚には数多のスクリーントーンがあるが、パッと見は分からない。別に隠しているわけではないけれど、散らかっていると嫌なのだ。アニメ雑誌の付録のポスターなどはクリアファイルに入れて保存している。 漫画本? ふふふ、ありますよ。厳選に厳選を重ねた素晴らしいコミックス。本棚にびっしりと埋まっていて、それが私の宝物だ。 適当なTシャツとショートパンツに着替えて、早速今日のまとめをしようとノートを開く。 「……あれ?」 あれあれあれ!? カバンの中から教科書を出し、ポケットに手を突っ込み、最後にはカバンを逆さにして振っても、ない。 「ボールペン!」 あれは失くしてはダメなやつだ。 尊敬する某漫画家の先生が愛用していると知って、お小遣いを貯めて買った高級ボールペン。 慌てて階段を駆け下り、スニーカーを穿いて自転車に跨った。 間違いない。十中八九、グラウンドに落としてきたのだ。 はた、と動きを止めて、外し忘れていた腕時計を見た。まだ部活は終わっていない時間。私はグルンとUターンした。 こんな太い脚を剥き出しにしたまま野球部員さんたちに見られたら、この世から消えたくなることは必至。着替えてから改めて向かうことにした。
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