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夏合宿と水着
「お前、泊まらないんだって?」
買い出しから帰ってきた私が、外の手洗い場の横を通った時のことだった。
「きゃあああああっ!」
思わず、両手にぶら下げていたジャガイモと肉とタマネギと人参の入った袋を落としてしまった。そう。今日の夕飯はカレーです。
私はにやけてしまった口元を両手で覆い隠し、声を掛けてきた千葉先輩の裸の上半身をガン見した。どうやら今は休憩時間。坊主頭に水をかけて涼んでいたらしい。あああっ、スケッチしたい! いい具合の筋肉ーっ!
ヤンピチ・千葉先輩は私の叫び声の原因にようやく気付いて少し顔が赤くなった。
「んだよ、てめえの父親のくらい、見たことあるだろ」
「あああ、ありますけど、おとーさんのとは全っ然違いますから!」
おとーさんのビール腹と一緒なわけがないでしょうが! ここに紙とペンがあれば! 素敵ー! 腹筋割れてる! 腰が引き締まってセクシー!
「チッ、うるせえな。分かったよ」
千葉先輩は肩に掛けていたシャツを被って袖に腕を通してしまった。嗚呼。
「何だよ! そんな、非難めいた目で見るな! 今後は気をつけるから」
彼はそう怒鳴りつけると、私の足元の買い物袋を持って校舎へ向かった。
えええー、もう脱いでくれないんですか。ショボンです。
シュンとしてしまった私に気を遣ったのか、千葉先輩は溜め息を吐いて「悪かった」と謝ってくれた。でも、そういうことじゃないんです。むう、と不機嫌な顔をしているので、千葉先輩はちょっと困っていた。
分かってるけど、それではマネージャーを引き受けた代価というものがですねえ。この労働力が本当はマネーになるはずだったんですよ。マネージャーじゃなくて。
蝉の鳴き声のシャワー。夏の暑さに輪をかけていた。
合宿1日目。私は部員たちの飯炊き女と化していた。
監督が何処ぞから仕入れてきた炊飯器5台をフル稼働させている。昼は私の母が手伝いに来る。以前小学校の給食を作っていたツワモノだ。心強い味方は献立も考えてくれたので、夜は母なしでなんとかやっている。
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