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スマートフォンがない世界
第一章 「公園での出会い」
二〇一九年七月十四日。スマートフォンによる接触事故と他人に悪意を持つ
人の増加を受け、「スマートフォンの所持と使用、そして製造を禁止する」というルールが国会で新たに作られた。違反した場合は使用者から強制的に没収し、バラバラに分解される。それを恐れたサラリーマンや主婦など多くの人がスマホを手放し、やがて世界中の携帯会社がスマートフォンの製造を全面的に停止した。
それから二週間後の金曜日。神奈川県の湘南高校に通う一年生で16歳の佐藤俊一はいつものように自転車で学校の近くにある公園にやってきた。ポケットに入っている小型の携帯用ラジオからは『高温注意情報が各地に出ています。熱中症に十分注意してください』という男性アナウンサーの声が朝から何度も流れている。したたる汗を紺色のタオルでぬぐいながら水筒に入ったスポーツドリンクを飲んでいると、古びた木のベンチに座って本を読む少女を見つけた。赤いツバキの花の飾りがついたヘアゴムで長い黒髪を肩の後ろで二つに束ねている。紺色のブレザーとスカート、半そでの白いシャツに水色のリボンタイという格好から、同じ高校の生徒だと分かった。
ショルダーバッグを肩にかけ、休む場所を探していると、ふいに「佐藤だよね、同じクラスの。ここ座りなよ」という声が聞こえ、本を読んでいた少女が立ち上がるのが見えた。「ありがとう」と礼を言って彼女の隣に静かに座ると、彼女は彼の前に手を差し出してきて「私、篠原美花。今年から湘南高校に転校してきたんだ。歳はあなたと同じ。よろしく」と名乗った。「こちらこそ」二人は握手を交わした。お互いの手に、タオルに包まれた保冷材のひんやりとした感触が伝わってきた。
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