スマートフォンがない世界

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 第六章 「定期テストに向けて」  翌日の午後三時。美花は教室に残り、一人で苦手な国語の勉強をしていた。現代文は漢字や読みが多いので解けるのだが、今回の試験では古文の問題も出される。青色のノートにふせんを貼った場所を一ページずつ見返していると、透明なファイルに入った四枚のルーズリーフが自分の机に入っているのに気付いた。  取り出してみると、『篠原へ 今度の定期テストの範囲をまとめておいた。 持って帰ってしっかり見てくれ。応援してるぞ 佐藤』と書かれている。  目を通してみる。古文のページには『上から一文字ずつ順番に読んでいけば 解ける』、次のページをめくると『漢字と読みの攻略法 分からないものは辞書で調べて意味を確かめて、教科書のところに赤線引いて』と書いてある。  その夜、美花は夕食を食べた後、自分の部屋でノートを開いて分からない 漢字とその読みを調べ、書き込んでいった。勉強が終わったのは10時過ぎ。  風呂に入り、ペットボトルに入ったお茶を飲んで水色の寝間着に着替えた後、すぐに眠りに落ちた。  翌朝、教室の前で同級生の鈴原凛が「おはよう」と声をかけてきた。彼女は 母親との関係で悩んでおり、カウンセリングルームに行った時に会うことがある。得意科目は国語と生物、歴史である。  「おはよう凛。明日はいよいよ試験だね」と話しかけると、「明日から来週の金曜日まで毎日予習と本番があるから、寝るのが遅くなっちゃう」と言ってあくびをし、ノートを開いた。そこには間違えた漢字や単語がびっしりと赤で書かれている。  「すごいね」と言うと、「なおっちが『プリントを一日一〇枚ずつ渡すから、しっかり解いてくるように』って言うからさ、学校で少しずつやってるんだ。今五枚終わったんだけど、けっこう間違いが多かった」とため息をつき、机にもたれかかった。彼女の茶色く染めた髪は四月よりも短くなっている。  「髪の毛短くしたんだね」と話しかけると、「入学式の時、長くしすぎて親に怒られてさ。それで先週美容院に行ってきたんだ」と眠そうな声で返される。「次の時間は寝る。先生からプリントもらっといて」と言って、凛は眠ってしまった。彼女の肩に自分のブレザーをかけてから、美花は席に戻って教科書を開いた。       
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