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第七章 「試験本番」
予習を終え、美花は三限の国語の試験に向けて最後の見直しをしていた。
俊一がくれたルーズリーフと、自分のノートに書かれた答えを照らし合わせて確認する。そうして教科書を閉じた時、木原が教室に入ってきて「答案用紙配るから前の席から順番に回してくれ」と言った。
全員に解答用紙が配られると、木原はポケットからストップウオッチを出して「この時計で11時半になったら終了のアラームが鳴るから、それまでに問題を解き終えること。では、はじめ!」と号令をかけた。
美花は苦手な古文の問題から解き始めた。上から順番に読んでいくと問題の
意味が分かり、わずか10分ですべてのかっこを埋めることができた。続いて
漢字と読みの問題を見る。意味を辞書で調べていたので、すぐに解き終わった。
最後に見直しをして、試験が終わるのを待つ。ピピピピというアラームの音と「今から解答用紙回収するぞ」という木原の声が聞こえ、前から回ってきた
用紙に自分のものを重ねて提出する。木原が教室を出ていくと、「疲れた~」「この後も授業だろ?眠いよ」と言う男子の声がクラス中に響いた。
お茶を買うために階段で一階に降りる。ふいに後ろから「篠原」と呼ばれ、
振り向くとそこに俊一が立っていた。「佐藤!?」驚きのあまり大きな声が
出てしまった。「来られないんじゃなかったの?」と聞くと、「一限と二限は休んで、保健室で過ごしてた。国語の授業を休む日が多かったから、『今日は出ないと』って思って三限の試験も受けてたんだ」と返された。
「あなたが書いてくれたルーズリーフ、すごくわかりやすかった。ありがとう」と礼を言うと、「よかった。事前に木原先生から範囲聞いて、それを簡潔にまとめたんだけど、使ってくれたんだな」と照れくさそうに髪に手をやる。
彼のあごは病院で会ったときよりも少し細くなっている。「体が細くなったよね」と呟くと、「あ、分かるか?ここ数日、家でも病院でもいろんなことがあったから、やせちまった。今の薬は一生飲まなきゃいけないってさ。やになるね」と言って笑った。
明るい笑みを見せる彼の姿に、胸が締め付けられそうになる。「佐藤は前向きだね」涙声で呟く美花に、「篠原?」と俊一が心配そうに声をかける。「一度カウンセリングルームに移動して、そこで話そう」
彼の言葉にうなずき、『いつでも入室可』と書かれたプレートが下がる白いドアをノックして中に入る。緑のカーテンがつけられた室内の中央にはCDプレイヤーが置かれた机があり、そこからハイドンのクラシック曲が流れている。
「落ち着くよな、ここ」美花と一緒にオレンジ色のソファーに座り、俊一が
呟く。美花の目は赤く腫れている。「テスト、どんな感じだった?」と彼に
聞かれ、「八十点ぐらいは取れそう」と答える。「すごい!返ってくるのが
楽しみだな」興奮した口調になった彼の顔をしっかりと見て「ありがとう」と
礼を言う。霧状になったアロマの香りが漂う部屋の中で、二人は顔を真っ赤にして見つめあっていた。美花は口を開こうとしたが、心拍数が上がっているせいで言葉がなかなか出てこない。
「佐藤。秋になったら、甘いものでも食べに行こうよ。焼きいもとか、ようかんとかさ」ようやく顔を上げてしっかりと言うことができ、息を吐きだす。「オーケー。楽しみなことがまた増えた」彼の返事には嬉しさがこもっていた。ほっとした美花は「もうそろそろ授業が始まるから、戻ろう」と俊一に声をかけ、彼とともに三階の教室まで戻った。
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