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「だからさ、なんで昇格した途端に会えなくなるわけ? いつもいつも月曜日になると用事があるとかいって。家にいるわけでもないんだろ、いったいどこいくんだよ。まさか他に……好きなやつができたとか」
「そんな、馬鹿なこといわないでよ!」
それまで神妙に聞いていた美和子が、弾かれたように顔を上げた。
かちゃりと音を立てたコーヒーカップから冷めた中身が溢れ、真っ白なソーサーに茶色い点々を作る。
無理矢理に美和子を呼びつけた深夜のファミレス。
美容師は激務だから、仕事の後に呼び出すなんて申し訳ないことだとは思ったけど。
そうでもしないと顔を見て話せないのだから仕方がない。
僕と同じ高校を出たあと専門学校に進学した美和子は、卒業と同時に美容師になる夢を叶えた。
夢に邁進する美和子は素敵だったし、彼氏として、今だって応援している。
でも美容師になって7年目の今年、その若さでチェーン店の店長に昇格した美和子は、前にも増して忙しくなった。
もちろんそれは素晴らしいことだし、会える日が目減りするのは理解できる。
とはいえ美容師の主な定休日のはずの月曜日にさえ、ここ半年間、まったくデートできていない。一度もだ。
遠距離恋愛ならば納得もするけれど、同じ都内在住でそれはないだろう。
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