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プロローグ
───冷たい雪の降る様を、家の中から窺うは二人。黒の男と金髪の少女。
真っ白で冷たい。私がそれを見て抱く感情何て何時もそれだけ。
「……中々積もるなぁ。と言うかまだまだ積もるのか、これは。」
不意に。隣で一緒に外を眺めていた父が、外に積もる雪の様子を
見詰めては。呆れた様に言葉を一つ零す。言葉から察するなら
積もった雪に、でしょうか? 此処しか知らない私には父が本当は
一体何に呆れているのか。察する事は出来ても、それがイマイチ
理解に及びません。
私の想像も及ばぬ地から此処へ来た父。もしかしたらその地では、雪何て
物は滅多に降らなかったのかも? ……分からない。私の祈りに応えて、私の
下へと来てくれた父の事を、過去を私は良く知らない。私の知らない父、私と
出会う前の───お父さん。
「……。(寒い。)」
見詰める窓の外。深々と降り頻る雪の、その寒さが自分にも伝わってくる
様な気がして、私は凍える様な冷たさを心で感じた。私は冬が好きじゃない。
冬は只々寒くて、冷たくて、眠れば二度と起き上がれない気がするから。だか
ら冬何て───
「イリサ。」
「……はい?」
声を掛けられ顔を向ければ、そこには寒さを忘れられる暖かな瞳。父は双眸で
私だけを見詰めながら。
「今日の夕食は温かな物でね、こう言う日にはより一層美味しく感じられ
ると思うよ。」
「~~!」
言葉が、瞳が、気遣いその全てが暖かく。その温もりをもっと、もっと強く
感じたいと思った私は父へ抱きつく。抱きしめた父の体は大きくて暖かい。
「! ………。」
父は小さく驚きながらも私の後ろ頭を軽く一撫でしてくれる。それはまるで
心まで撫でられたかの様な擽ったくて心地良い感触。でもその手は
直ぐに頭を流れ去ってしまう。もう一度と願う、自分の気持をぐっと堪え。
「お父さん。」
「うん?」
「あの、私お父さんのお話が聞きたいです。」
「私の話? ……ふむ。」
違うお願いを口にした。話を聞いた父は片手を顎の辺りへ添え、何かしら考え
ている様子。
私は父の事を良く知らない。だけど知らずとも父が父である事は変わらないし、
それは知ってもきっと変わる事はありません。……でも、それでも今私は父と
話がしたい。私の側で、その甘く優しい声色を耳で感じさせて欲しい。この
温もりから今は離れ難いのです。
「ダメ、でしょうか?」
しかしそれでも、私の我儘で父を困らせたくは、父に嫌われる様な事だけは
何があっても許されません。だからダメと言われれば素直に受け入れる他は
無く。例え、例えどんなに離れ難くも、寒い夜に成るとしても……。
「いいや。構わないよ。」
「!」
「そうだなぁ……。夕食の後、書斎で話そうか。それで良いかな?」
「はいっ!」
体中が暖かい。ああそうか。この、温もりを強く感じられるのはきっと。
「お父さん。」
「? どうしたんだい?」
「冬って、冷たいだけでは無いんですね……。」
冬は好きじゃない。でも、独りじゃない冬はこんなにも───
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