第五十八話 ひらひらひらり

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第五十八話 ひらひらひらり

 ───寒空の下に広がる畑では、沢山のゴブリンと一人のオークが忙し  なく動き回っている。  仕度の済んだイリサとリベルテを連れ、三人で畑を目指す。隣を歩く  イリサとリベルテはコートを羽織り、私も今や貴重と成ったロング  コートを羽織って歩く。歩きながらチラリと横を見れば、イリサは腕に  クロドアを抱き、その手には紐の付いた革袋が一つ吊り下げられている。  あれは私が書斎から持ち出した物で、荷を持ちたがった様子のイリサに  持たせた物だ。その中身の利用方法を思いつつ歩けば、何事もなく到着  した畑。辿り着いた畑を見たイリサとリベルテが。 「皆さんお忙しいみたいですね。」 「みたいね。まあこの天気じゃそれも納得よ。」  二人が呟いたように畑ではゴブリン達が何時も以上に大慌ててで収穫やら  手入れやらを熟していた。私はゴブリン達に指示を出しているオークを探し。 「ヴィクトル!」 「!」  見付けた彼の名を呼ぶ。気が付いた彼はゴブリン達に何事かを言いつけた後に  此方へ歩き近付いて来る。その姿は寒いらしいにも拘らずパツパツの半袖シャツ  に丈の足りてないズボン。寒さに強いのか着る物が無いのか、一体どっちなのだ  ろうな。 「どうした。親方。」 「ああ。今後の作業についてなんだが───」  どうでも良い事を頭から追い出し。私は農業組の代表であるヴィクトルに  今後の作業予定などの話を詰める。本来この工程は中間管理を担当している  タニアの物だが、彼女には冬を越すまでの間休みを取るよう言い付けた。  最初彼女は『休みなんて。』等と遠慮をして見せ、今の仕事が楽しいとも。  タニアの話を聞いた私は彼女に休みを進めるのではなく、言い付ける形を  取る事に。彼女は優秀でしかも与えられた役職作業も好きな様子だった、が。  かと言って延々働かせる訳には行かない。優秀な彼女をワーカーホリック等に  して価値を落とす事は避けたく、またイリサの友人にもあたる存在だからな。  仕事が好きな人材にこそ適度な休みを取らせ、仕事恋しくなる時間を与え、  また顧みる期間を与えるべきなのだ。それはやがて効率アップやスキルアッ  プ等に繋がり、結果的に休ませた方が伸びしろはプラスされる。  それに、休みを取らせた彼女には一つだけ軽い頼み事をしてある。それが  上手く行けば彼女の負担も大きく減るだろう。 「───と言う感じで今後の作業を進めようと思う。大丈夫そうか?」 「問題ない。」 「分かった。なら今の方針で頼むよ。」 「了解だ。」  頭の隅で考え事しながら、私はヴィクトルに伝えるべき事を伝えきった。  伝えた事は至極簡単な業務連絡と、今後の畑運営に関する方針についてだ。  もう既に冬へ片足を突っ込んでいる現状。少し前から畑での収穫作業は縮小  させ、代わりに冬の間使えないであろう畑の手入れに作業の重きを置いて  いる。今現在ごく一部の狭い範囲を残し、畑では土の耕しや雑草抜き。それと、  落ち葉などを集め作っている肥料作りが主な作業だ。そんな中でもごく一部を  使っている理由は。 「それと天気があの様子だから、メンヒへの食料配達を今日に繰り上げ  たいんだが、問題ないだろうか?」  もう一つの要件をヴィクトルに伝える。すると彼は一つ頷き畑の方へ歩き、  使われている畑付近に居たゴブリン達に何事かを話す。話を聞いたゴブリ  ン達が収穫した物を、畑に置いてある荷車に次々積み込みだした。  そうして収穫物と、空のガラス瓶や木材等が積まれた荷車をヴィクトルが  此方に引き歩き。 「これ位で良いか?」 「ああ十分だよ。ありがとうヴィクトル。」 「なら早速届けに───」 「いや、今日のそれは私が行くよ。ヴィクトルにはまだ此処で作業がある  だろう?」  あの村に食料を届けるには荷車を引かねばならず、短い距離ならまだしも  メンヒまでの距離をゴブリンだけでは厳しい。だから配達にはオークのヴィ  クトルと数人のゴブリンが行って居たのだが、彼は畑でまだまだ仕事が残っ  ている様子。となれば必然私が行く他ない。 「良いのか? 親方。」 「構わないよ。此方も此方で実は用があるからな。その代わり一人程ゴブリ  ンを借りたい。」  頷いて了承して見せるヴィクトルが、畑へと振り返ると同時。 「ハイッ!ハイハイハイッ! オイラ、オイラが付いてくゴブ!」  話が聞こえていたらしいニコが両手を、全身を使ってアピールして来た。  朝食時に珍しく来ないと思ったら此方の手伝いに駆り出されていたのか。  他に名のり上げも内の様子なので。 「ニコ。」  ヴィクトルがニコを指差す。 「ヒャッホー!」  選ばれたニコはその場に農具を放り捨て、野菜の積まれた荷台に飛び乗る。  リベルテ、ヴィクトル、その他ゴブリンの視線も物ともしないニコは荷台  で寛ぐ、が。 『……。』 「ギギッ!」  先に乗っていたクロドアと睨み合いを始める事に。一匹と一人の様子を見た  私は一度頭を振って。 「……。それじゃあヴィクトル、留守を頼むよ。」 「ああ。」 「後どうしてもと言う時以外タニアは頼らないように。」  一つ頷くヴィクトル。私も彼に頷きを返し、荷車の引手を持ち上げては。 「行こうかイリサ、リベルテ。」 「はい。」 「ん。」  荷台からクロドアを抱き上げるイリサとリベルテへ声を掛け、野菜と  ゴブリンが一人積まれた荷台を引き。畑を後にしては森の中へ───  ───曇り模様の所為で薄暗い森の中。荷車を引きながら進む私はゴブ  リン達に教えてもらった秘密の痕跡を頼りに、前に訪れたあの村を目指し  ひた歩く。 「いやぁ~畑の手入れは大変ゴブねぇ~。お陰でクタクタゴブよ。」 「その割にはアンタ、立候補に元気いっぱいだったわね。」 「手入れから抜け出せると思ったら力が溢れたゴブ。」 「は、はは……。」 「ふふ。」  乾いた笑いと小さな笑いを零すのはリベルテとイリサ。そして荷台で  寝転ぶはゴブリンのニコ。そのニコが流石に不味いと思ったのか、それと  もただの気まぐれか。 「それで親方。オイラ何を手伝えばイイゴブ?」 「得には無い。ただ一緒について回ればそれで良い。」 「了解ゴブ~。」  労力の必要ない手伝いと分かり嬉しそうな様子。何時ものヴィクトルなら  荷降ろしなどの為にもう少し連れて行くのだが、今回は別に荷降ろしに  苦労はしないだろう。村人に頼む予定だし。それよりも重要なのはこの  ()()()()()()()()()だ。彼等を側に、あの村人達に見せる事こそが重要  なのだからな。 「でもあの村に行くのも何だか久し振りな気がするわ。イリサはあの後  もう一度行ったのよね?」 「はい。お父さんやヴィクトルさん達と一緒に。」  私の左隣りに並んで歩くイリサとリベルテが、今向かっている村に付いて  話す。  あの飛竜の一件後。私は一度だけ村にオークやゴブリン、そして食料と  共に村を訪れ、害獣被害で切羽詰まっていた村へ手を貸した。勿論見返り  を求めての事なので善意からでは無い。彼等は害獣被害に困窮し、田舎の  村だからか住人達の差別意識も低く、交流を持つにはまさに理想の相手だった。  なので行く行くの事を考え売れるだけ恩を売る事にした私は、自分の村で  大量に収穫出来る野菜を彼等の村へ定期的に届ける事に。届けるのは最初の  一回を除き、全てヴィクトルとゴブリン達に任せたいた。あの村の住人達は  勿論此方の住人達にも互いに馴れてもらう目的で、な。そして今日はその  成果の確認も兼ねての訪問。生きる糧、食料を運ぶ彼等(ゴブリンとオーク)は村人達に  どう映り、どう印象付けたかな。 「あ、村が見えてきました。」  イリサの言う通り森の出口から遠くにあの村が見えている。 「アレがニンゲンの村ゴブかー。」 「ニコは配達で来た事が無いの?」 「無いゴブ。」  ニコが感想を漏らし、リベルテが拾う。私は二人の話を聞き流しながら  荷車を引いては村を目指し歩く。やがて村の入り口に近付くと。 「! 魔女様!」 「おーい! 魔女様が来たぞー!」  見張りらしき男二人が、一人は此方に。もう一人が村の中へ叫び上げる。 「?(……魔女様?)」  この村を訪ねるのは害獣後直ぐの配達以来。どうやらその間に私の評価も  何かしら変化があったらしい。一刻も経たず村の入口には村人たちが集ま  りだし、その中から。 「魔女様っ!」 「ああえっと……。」 「オットー、オットーです。」 「でしたね。申し訳ない。」 「いえいえ! そんな頭なんて下げないでくだせえ!」  出て来た男は何時か獣に襲われている所を助けた村人で、名はオットーと  言うらしい。私は彼に荷台を指差しながら。 「天気が怪しい様子でしたので、予定を繰り上げで食料を持って来ました。  良ければこれを運び込んで貰えますか?」 「ありがてぇ……。皆、食料だ!」  彼がそう言うと人だかりから男性の村人何人か進み出ては、荷車を  数人がかりで運んで行く。此処まで引いてきた荷車が私の横を通過  するその間際。 「ゴブ?」 「一緒に運ばれてどうするんだ。」  一向に降りる気配を見せなかったニコを片手で掴み上げては地面に降ろす。  全く此奴は……。さて、食料の運び込みも終わったな。私はこの村に来た  他の目的を果たす為。オットーと名乗った男性へ。 「少しお話したい事があるのですが……。」 「? 分かりました。家に案内します。」 「お願いします。」  彼の家で話をする事に。 「行こうか。イリサ、リベルテ。」 「「はーい。」」 『……。』 「……。」  後ろでクロドアとニコの睨み合いを微笑んで見て居た二人に  声を掛け。私達は村の入り口から彼の家へと場所を移す事に。  道中村の中を歩くと村人達が私を見ては『魔女様。』や『魔女様だ。』  等と口々にしていた。一体何故かと思いながら男性の後へ続く───  ───彼の家は田舎の村だけに結構な広さで。その居間において、  私達はテーブルを囲んで彼と話す事に。と言っても話すのは私だけ  だが。 「それで話しってのは?」  テーブル向かいの男性が訪ねる。彼は私と一番親交があるとかで、  この村で私との取次役を任されている、らしい。 「ああ。一つは留学、或いは弟子とでも言いましょうか。うちのゴブリン  の何人かをこの村に置いて、彼等に畜産について教えて頂きたいのです。」 「へぇ。他の連中にも聞いてみますが、多分大丈夫ですよ。」 「本当ですか? ありがとうございます。」 「いやぁそんぐらい何の。魔女様にはワイバーンに薪に食料。もう感謝が  尽きませんですよ。」  彼は“あっはっは”と大きく笑う。ふむ。もっと忌避を抱くかと思ったが、  案外すんなり通ったな。これも稼ぎ築いた物の成果か。 「と言っても直ぐにと言う訳では無いので、是非他の村の人とも話し合って  決めてください。拒否されても私は気にしませんから。」 「分かりました。」 「お願いします。後は食料の方は足りてますか?」 「ええもう! 定期的に届けて貰ったお陰で村の倉庫に備蓄も出来て、牛達の  飼料にも回せてます。これなら牛に手を出さず皆で冬が越せそうで……。  ホント、魔女様には感謝しか!」 「それは良かった。困った時は助け合いですからね、深く気にしないでくだ  さい。」 「ああ魔女様! ……っ!」  涙ぐむ男性。順調に恩は売れている様子で、しかも牛も健在とは。此方も嬉し  い限りだよ。もっと深く気にしてくれと思いながら。 「では次の話しなのですが、()()の様子はどうですか?」 「───!」  泣き顔だった彼は真剣な表情に変わる。流石にアレは思う所もあるだろう。 「今の所は順調、だと思います。どれも触れれば温かく、時折動いてやがり  ますからね。」 「成る程。」 「ただですね。俺らもあの手合は初めてでですが、経験と観察から温度を下げ  るのは良くないって事は分かりました。それで温度一定に保ちたいんですが……  その……。」 「温度調整に回せる薪が厳しいんですね。」 「へい……。すいやせん、自分たちの分だけを考えるとどうしても。」  ふむ。だろうなとは思っていた。食料の方は何とか出来たが、薪。つまり  暖を取るために必要な木材が不足しているのだ。これはばっかりはどうし  ようも無い。木材は私の村の方でも必要な物で、此方に回した分だけでは  アレの飼育が難しいそうな。であれば持って来た物の出番かな。 「それに付いて一つの解決策を───」  “ガチャン。”私が話を始めた所で家の扉が開き。 「ただい───! 魔女様っ!」 「え? あ、本当だ!」  家の扉を開いて入って来たのは少女と青年。二人は此方に近付き。 「魔女様いらっしゃい! イリサさんとリベルテさんも!」  少女が明るい笑顔で歓迎の言葉を送り。隣に座って居た二人が  手を振り。 「あ、あの。ちゃんとお礼が言えてませんでした。俺の命を救ってもらっ  て、ずっと礼が言いたくて。あ!ワイバーンもだ! それであの、ありが  とうございますっ!」  快活そうな青年が口早にお礼を述べた。二人共顔色は明るく、青年の  方は前に見た時よりも随分元気そうだ。少女も暗い影が消えて明る気な  様子。 「フィ!ウッツ! 魔女様達とは今大事な話し途中だぞ!」 「ごめん父さん。」 「……はーい。」  怒られた二人は少し落ち込んで見せる。父親が此方に軽く頭を下げたので、  私はそれに会釈を返す。 「? 母さんはどうした?」 「お母さんなら倉庫の方に呼ばれたよ。なあフィリッパ?」 「うん。」  どうやら荷降ろしの手伝いに駆り出されたらしい。男性は子供たちを  手洗いに行くよう促しては。 「すいません……。その……。」 「お気になさらず。二人共元気な様子で何よりです。」 「お陰さんでウッツの奴も……うぅ。」  彼は涙脆いのか、先程から頻りに涙ぐむ。とは言え我が子の事となれば  それも仕方ない。私は隣に座り、膝にクロドア乗せるイリサへ顔向ける。  するとイリサが此方を見上げ微笑み、私も笑みを返す。再び顔を前へ戻し。 「さっきの話の続きですが。」 「あ、ああへい。」 「イリサ。預けた袋を貸してくれるかい。」 「はいお父さん。」  家を出る前イリサに渡した袋を受け取る。そして縛られた口紐を解き、  中身をテーブル上へと取り出す。取り出したのは手のひら寄りも少し  大きめなサイズのクリスタル達で、薄赤色の三つに水色の物が一つ。  取り出されたクリスタルを見た男性は。 「あの、これは?」 「クリスタル、簡単に言えば魔法の石ですよ。」 「へぇー……。」  物珍しげにクリスタルを眺める男性。魔法が存在する異世界で、以外に  も魔法に疎い住人達にも慣れた私は、知らぬ事は特に気にせず。テーブ  ル上の薄赤色のクリスタルを一つ手に取り。 「これを持って、少し私の言う通りにしてもらえますか?」 「へ、へぇ。」  男性にクリスタルを手渡し。彼に魔力の込め方、とは教えずその方法だけを  話し実践させてみるも。 「……。」 「(変化無し、か。)」  意味を教えず魔力の込め方をやらせて見た結果は、不発。うーん。結構簡単な  事だと思うのだがなぁ……。やはり個人差の存在は否定出来ないか。 「あの、これは何時まで?」 「あ、ああもう結構ですよ。」  男性からクリスタルを受け取る。彼が使えれば話が早く済むと思ったの  だがな。等と思っていると。 「魔女様私もそれやりたい!」 「お、俺もちょっとやりたいですっ!」 「お前たち……。」  部屋の奥へと続く場所で、此方の話を聞いていたらしい彼の子供たちが  姿を現し、私へ駆け寄る。呆れ顔の父親が此方を伺う。彼同様盗み聞き  には感心しないが、それを指摘するのは私の役目ではない。なので。 「二人もやってみるかい?」 「「はい!」」  私は私の目的を果たす事に。興味津々な彼等に二つクリスタルを渡し、  クリスタルを手渡された二人にも男性同様魔力の込め方をとは教えず、  その方法だけを伝えた。川の流れ、内から外へ、等などだ。 「「……。」」  説明を聞いた二人が目閉じ実践を試みる。すると少女の方のクリスタル  が淡く光出し。 「わ、温かい!」  私がクリスタルに記憶させた魔法が効力を発揮する。青年の方はと言えば  一瞬光ったが、それだけ。中々興味深い結果だ。 「名前はフィリッパ、さんでしたっけ?」 「はいっ。フィリッパですっ。」 「余り込め過ぎないようにね。込め過ぎると疲れたり目眩が起こるから。」 「? あの、それでこれって……?」 「ああ。それは君の魔力を使って、クリスタルが魔法を使っているんだよ。  だから込め過ぎると疲れてしまうよ。」 「「「!!!」」」  私の言葉に大きく驚いて見せる彼等三人の家族。 「すごい! わたしも魔法が使えた! これがあれば他にも魔法が?」  少女が興奮した様子で尋ねて来る。 「それは難しい。君が今使っているのは私がクリスタルに記憶させた魔法  だから、それにいくら魔力を籠めても周りが温かくなるだけだよ。」 「えー……。わたしも魔女様みたいな、すごい魔女になれると思った  のに……。」  明らかに落ち込む少女。 「でもそれが使えたのなら君にも魔法の素質があるのだろう。」 「ほんとう!?」 「とは言え魔女を目指すのは、余り、ね。」 「?」  娘の父親、それと青年が何とも言えない表情を浮かべている。この世界  に置ける魔女の意味とは、端的に言えば魔法犯罪者のそれ。なので魔女  を目指すと言えば、親はあんな顔をするだろう。……そう言えば。 「何故村の人達は私を魔女“様”と?」  クリスタルで遊ぶ少女と青年から視線を男性へ移し尋ねる。 「ああいや、実は俺ら魔女ってのにあんまり詳しく無いもんで。  魔法が使えて余り良い者では無いって話し───」 「お父さん! 魔女様は良い魔女様だよ!」 「誰も悪いとは言ってない! とまあ、その。うちのがこんな調子で  言い回るもんで、気が付くと誰もが……。それに、俺たちは正しい  はずの騎士共に裏切られたって気持ちもありまさぁ。だからあっち側の  連中が言う悪がこっちの助けなら、それに様を付けちまおうってんで。  へへ。」  申し訳ない顔で頭を小さく下げる男性。 「ご気分を害しちまいましたか?」 「いえ。逆にいい気分です。」 「? そりゃありがてぇです。」  私は男性と会釈を交わし合う。今の彼の説明には私の琴線に触れる部分が  あったので、魔女呼ばわりも悪くない。そう思えた。 「で、ですね。このクリスタルがアレの飼育に役立つと思うんですよ。」 「……!成る程。」 「ただし今試した様にクリスタルは扱える者と、そうでない者が居るので  それを探し、名と人数を控えて欲しいのです。」 「分かりやした。」  これはアレ飼育の助けになると共にもう一つ。魔法が扱える可能性を秘めた、  ()()()()()()()()()()()()()()()()。  その為にこの、行商人エルフから得た大量のクリスタルを有効に使おう。  しかし今回は察しがついたから良かったが、うーむ。やはり村の状況を  もっと詳しく、直ぐに知れる方法があればなぁ。私は男性に使用方法等を  教えながら、頭の片隅で暫し考える。そんな私の耳へ。 「あ、降って来た! お父さん雪が降ってきちゃったよ!」 「わ。本当ですね。お父さん雪です。」 「「なにっ!?」」  我々は自分たちの娘が言う言葉に外の窓を確認。外は空から雪が降っている  最中。しまった、少しゆっくりし過ぎたか。後悔を感じつつ私は家主の男性へ。 「……また一晩の宿を頼めますか?」 「了解でさぁ。」  頼み事を一つ。男性は小さな笑顔と共に快諾してくれた。  再び見た窓の外には、ゆらゆらと雪が舞っている───
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