第六十一話 過去より今

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第六十一話 過去より今

 ───黒の男が住む家のリビングにて。  食料の配達を済ませ家路に着いた頃。空からは雪が降り出し、陽も  暮れ夕飯時にもなると本格的に吹雪出していた。 「……中々積もるなぁ。と言うかまだまだ積もるのか、これは。」  自宅の窓から外を眺めれば、白い景色にこれまた白い風が吹き荒れている。  元居た世界では都会住みと言う事もあり、幼少期に比べ滅多に見る事も出来  なかった雪。いや、例え降ったとしても気にしていたのは交通機関の事だけ  だったか。こうしてただ雪に驚ける日がまた来るとは。  全く、あの頃に比べると今の私は随分と様変わりしたな。そもそも姿がゲーム  のキャラで、子持ちな上にゴブリンにオーク、それと人間と悪魔。更には  ドラゴンのペットまで一緒とは。いやぁただの人間だった自分に随分と  盛られた物だ。私は染み染みとした気分を感じながら、此方で守る事に  なった娘に視線をチラリと向ける。 「……。」  隣で一緒に外を眺めて居たイリサ。その瞳は何処か儚げで、また寂しそう  に見え。 「イリサ。」 「……はい?」 「今日の夕食は温かな物でね、こう言う日にはより一層美味しく感じられ  ると思うよ。」  だからこそ私は寂しい思いをさせまいと、何気ない話で声を掛ける事に。 「~~!」  実際寂しかった様子で。さして面白みのない話にも拘らず、イリサは私に  抱きついて来る。こんな寒い日は温もりや人肌が恋しくなる事も多分に  あるだろう。それが今まで一人で生きて来たと言うのなら尚更。そう、  彼女は私と会うまでの間ずっとこの森で独り生きてきた。もしかしたら  この冬も、彼女には恐ろしく映っているのだろうか。そう思うと。 「! ………。」  抱きつくイリサの頭を、その綺麗な金色の髪を軽く撫で透かす。  こう言った時に掛ける言葉が浮かばない、その事には歯がゆい思いを感じる  が、代わりに何かを示し伝えるなら行動しか無いだろう。だから私は娘の頭  を一つ撫でる事に。それで私は何を伝えたかったのか、娘に何を伝えらられ  たのか。生憎自分自身でも図りきれない。もっとらしくあらねばなぁ。 「お父さん。」 「うん?」  私が、私に与えられた役にもっとを求めていると。その役をくれた娘が  此方を不安げに見上げ。 「あの、私お父さんのお話が聞きたいです。」 「私の話? ……ふむ。」  私の話と言うのは、私自身の事について。だろうか? 思えば私はイリサの  事は神殿での告白で多少なりとも知っている。だがイリサに私自身について  を話した事が全く無いな。聞かれる事も無く、また話すような事でも無かっ  たと言えばそうなのだが。何より話すとややこしいからなぁ……。此処に  来る前と後では特に。 「ダメ、でしょうか?」  此方を見上げるイリサは不安げながらも、何時かの様な引き下がらぬと言う  意思は感じない。私が断れば素直に引きそうだ。とは言え。 「いいや。構わないよ。」 「!」  娘に聞きたいと言われれば話そう。しかし流石にまるっとそのまま伝えた  のではイリサも混乱するだろう事は必死。 「そうだなぁ……。夕食の後、書斎で話そうか。それで良いかな?」 「はいっ!」  夕食と言う猶予期間を持って話す内容の整理でもさせて貰おう。私の提案  をイリサは喜び一杯で返事をしては。 「お父さん。」 「? どうしたんだい?」 「冬って、冷たいだけでは無いんですね……。」  暖かな笑みを浮かべるイリサ。娘にこの様な笑みを浮かべさせてあげる事が  出来た事に、小さくない喜びを感じながら。 「……そうかも知れないな。」  私はこの笑顔を守ると改めて心に誓う。 「ただいま~!」  イリサと二人。互いに笑みを浮かべあっていると玄関から声が響き、  やがて直ぐにリビングの扉が開かれ。 「いやぁ外凄い凄い! 本格的に降ってるわよー!」 「……何でアタシがこんな。それに何で男のアンタが一番軽い荷物な訳?」 「ご、ごめん。」  リベルテ、エファ、オディの三人がそれぞれ荷物を手にリビングへ現れた。  リベルテは食料を、エファとオディの二人は暖を取るための薪をそれぞれ  持っている。彼等には必要な物を取りに行ってくれるよう頼み、一名を除き  快諾しては今戻って来た所だ。 「三人共ありがとう。夕食が出来るまでの間ゆっくりしてください。」  言いながら私は薪組にはストーブの側に置くよう指示し、リベルテからは  食料を受け取り台所へ。その間際にふと気になり、去る前にリビングを一度  振り返る。 「大丈夫ですかリベルテ? あ、頭にまだ雪が……。」 「! ……あらありがとう。後全然大丈夫じゃない。アタシは寒いより暑い  方が好きで得意なの。だから寒いの大丈夫じゃないわよ。」  ぶるぶると震えるリベルテにイリサが毛布を手渡す。 「じゃあ手伝う何て提案するなよ。お前の所為でこのアタシまで手伝いに  巻き込まれて迷惑だ。」 「エファ!」  そこへ薪を片付けた少女が言葉を飛ばし、少年が慌てだす。それまでイリサと  話していたリベルテがエファと呼ばれた少女へ振り返り。 「……。」 「何だ? 人間如きが文句でもあるのか?」  見下す少女に、いや身長はリベルテの方が高いので態度的な意味でだが、そんな  少女にリベルテは真剣な表情のまま。 「“お前”じゃ無いでしょ。」 「ふんっ! 馬鹿が。律儀に守ってやる気は───」 「お前じゃない、でしょ?」 「何だよ! 人間位全然怖くも───」 「………。」 「………リベルテおねえさま。」 「よしっ!」  折れた悪魔少女の頭をわしわしと撫でるリベルテ。撫でられる少女の口は  コレ以上無いほど不服そうに歪んでいる。ふむ、この人外の村で生活した  所為か、リベルテは相手が悪魔でも余り恐れた様子を見せない。いや元から  彼女はイリサと同じくらい誰にでも快い態度であったか。 「「……。」」 「───何笑ってんだよ小娘とバカ!」 「いえ。リベルテが楽しそうでしたから。」 「バ、バカって酷いよ!」  話し合う彼等を見ながら私は思う。アレなら寂しくも無いだろう、と。  私は予想外に賑やかになった事を、これはこれで悪くないと思いつつ。  台所へと一人向かう───  ───台所で夕食の準備に取り掛かる、と言ってもリベルテ達に頼み事を  する前に、殆ど準備は済ませてある。  まずは持って来て貰った食料は食料棚へ仕舞おう。私は食料を開き、中に  入っていたクリスタルを手に取り魔力を籠めては、仕舞い込んだ食料の  上に戻し棚を閉じる。  今のクリスタルには冷気を発する魔法を記憶させており、言わば簡易  のクーラーボックスだ。元々日持ちのする根野菜が多かったが、これで  新鮮な状態を延ばせる。あのエルフに“値打ちはほぼ無い。”と言われた  クリスタルも、コレほど便利ならそうは思えん。 「ま。交換レートが安くて助かるので、余計な事は言わぬ考えぬが良い。」  私は食料棚から鍋の置かれた西洋風の竈前へと移動し、鍋の中身を確認。  鍋の中にはふつふつと煮える白い液体。そして煮込まれる人参ブロッコリー  玉ねぎの姿。今正に作っている物はシチュー。何時か鹿肉で作った物とは  違い今回作っているのはバター小麦牛乳から作り上げた物。バターは今日  に作った物で、野菜を炒めては小麦と牛乳を加え。更に自家製コンソメの  類を足して煮込んだ。生憎具材に肉は無い。 「骨をかき集めて作った自家製コンソメも、これでまた無くなったな。」  冬が近付き獲物がとれなく成る間際。村で共有した獲物の、その骨をかき  集めて何とか作ったコンソメ。二度目と言う事もありスムーズに作れたそ  れも、これに使ったので最後。外がアレだけ吹雪いているのだ、もう動物を  捕まえるのは不可能に近いだろう。しかし貴重な食材を使い込んだだけあり、  出来上がったシチューの出来は中々。ゴブリン達から貰ったハーブ類が良い  仕事してくれたな。私は彼等に感謝しながら。 「テーブルに食器を───」 「もう並べたわよー!」  言い終わる前にリビングからリベルテの声が届く。 「……早い。」  感心しつつ準備が出来ているのならと。私は今や元の世界から持ち込み  残った物の二つ。革の手袋を着けては鍋を持ちリビングへと向かう。  リビングではリベルテの言う通りテーブルの上に食器と敷物が敷かれ、  私はその敷物の上に鍋を乗せ。閉じていた蓋を開けて見せる。 「わー!」 「………。」  オディ少年が身を乗り出し、彼の隣に座る悪魔少女が体で無関心を  装い、しかして目は鍋をしっかりと見詰め。 「良い匂い。美味しそうねイリサ。」 「はい。とっても美味しそうですっ。」  リベルテとイリサが感想を零す。私はテーブルに座る皆の器に鍋の  中身をよそい。それぞれの容器をシチューで満たしたのなら。 「どうぞ召し上がれ。」 「「「「いただきます!」」」」  四人の声が重なる。自分の料理を心待ちにされるのは大変嬉しい事。  ではあるが、同時に抱える不安も大きい。そう思っていれば。 「……っ。美味しい!」 「……まあまあ。まあまあじゃない、まあまあよ。まあまあの  まあまあね。」  一口食べた少年が笑い。少女は確かめる様に何度も頷きながら二口目  の為にスプーンを器に伸ばし。 「うまー。ホント料理上手いわー。」  テンションの上がったリベルテが此方にウィンク飛ばしては親指を立てて見せ、  直後に頬を赤く染め。 「……。甘くて、暖かくて。とっても美味しいです。」  イリサがほころぶ様な笑顔を浮かべ、此方にそれを余す事なく魅せてくれる。  私はイリサに笑みと頷きを見せた後。一度息を深く吸い込んでは、僅かばかり  の間を置いてからゆっくりと吐き出す。料理を日常的に熟し人に出すのも成れ  て来たと思うが。それでもやはり新しい物、作り成れていない物を出すのは  緊張するな。重い緊張もイリサの笑顔に吹き飛んだ。 『……。』 「ん?」  そんな私の足元はクロドアが近付き、頭を“コツン”と一度ぶつけては此方を  見上げる。ああ、呆けている場合じゃなかったな。私は直ぐに台所へ向かい。  用意して置いた小皿を手に再びリビングへ。そして皆が食べているテーブル横  にしゃがみ込んでは。 「どうぞ。」 『!』  手にした小皿を、首を左右に振っては待ちわびるクロドアの前に置く。小皿が  置かれると直ぐ様乗せられた一口大に切られた、蒸したジャガイモとトマトに  齧り付く。赤い汁を滴らせるその姿は小さいながらも中々様になって居る。  まあ食べている物はプチトマトなのだがね。  私は可愛くも恐ろしげで、やっぱり可愛いペットを暫し眺め。その後自分も  娘の隣へと座り、皆で暖かな夕食時を過ごす。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  少々ぎこちない部分もあったが、それなりに賑やかな夕食も済ませ。 「マギア・アマナ(火よ灯れ)」  書斎にある薪ストーブ炊いては、書斎に一つだけと成ったソファーに  腰掛ける。ソファーの足元には器用に丸々クロドア、そして腰掛けた  隣には。 「さて何から話そうか。」 「……。」  キラキラとした瞳で此方を見遣るイリサ。夕食前に約束した通り、私の  話を聞きたいと言う娘を連れ書斎へ籠もった。が。 「(何から話せば良いか全く整理出来ん。)」  “私の事。”と言われ話すとすればまず出自などだろうか。それを話す事に  何ら遠慮も忌避も躊躇も無い。無いが、話してどうなると言うのと、話せば  イリサが混乱するだけだろう。うーん。上手く話せれば良いのだが、話が複  雑過ぎて難しい。……そうだ。 「イリサ。」 「はいっ!」 「イリサが聞いてみたい事は無いのかい?」 「私が、ですか?」 「ああ。生憎私は話が上手くないみたいでね、聞かれた事に応える方が上手く  話せそうなんだ。」 「……。」  最初から全てと考えるよりも、聞かれた事を考えた方が幾らか話せそうだ。  そう思った私はイリサにバトンを渡す。渡されたイリサが暫し考える様子を  見せては。 「それでは、あの。お父さんは神なのですか?」 「んー……。」  渡したバトンがあり得ない速度で、しかもスピンを加えながら此方に帰って  来たぞ。しかし今更バトンを避ける訳にも行くまい。非常に応え辛い質問だっ  たが、私は話し相手がイリサと考え。 「そうとも言えるがそうとも言えない。元の世界では人に悪神と数えられ、  自分もそうだと名乗りはしたが、実際の所自分が神かどうかを気にした事が  無いからね。」 「なるほどー……。」  今話した内容は決して元の世界、まして現実での私では無い。イリサに話した  のは私が遊んでいたVRゲーム内での設定であり。演じたボスの設定でもある。  今の私を思えば嘘とは言えないので、ある種これが一番応え易い。イリサも  私が社会の歯車であった話などは望んでいないだろう。私は話の取っ掛かりを  掴み。それを掴み進む事に。 「私と同じ力を持った存在は他にも居たし、多くの冒険者を倒しては倒され  たものだ。」 「え! お父様を!?」  大きく驚くイリサ。おっと、父が死にまくりの話と受け取られたかな。いやま  実際そうとも言えるがな。とは言え伝え方は変えよう。 「倒されたと言っても別に死んだ訳じゃないよ。今こうして生きてるだろう?  多くを倒し、多くに倒される。そう言う決まりがあったと言うか、実力で越し  た者には破れて当然だったんだ。私は彼等に楽しい戦いを提供するのが目的だっ  たからね。」 「……。あの、それではお父様は、多くのヒト相手に遊んでいらしたんですか?」  一度“ホッ”とした様子を見せたイリサが再び聞いてくる。 「確かに遊んでいたと言えるなぁ。他にも居た中の人、んんっ。いや他の神々にも  遊びが上手いと良く言われたよ。」 「他の神、ですか。」 「うん。中の良い───神の一人は、私の戦う姿がとても見栄えのあるモノだと  随分褒めてくれたよ。私も私で彼の戦いぶりは凄いと褒めたけどね。」  主に際どいタイミングでのデバフ演出が、な。お陰で彼はかなり嫌なボスキャラ  として定着していたが、理不尽で得た悪評ではないので此方側としては大変嬉し  い評価だったのを覚えている。懐かしき仮想の世界、彼等は今も戦っているのだ  ろうか? あの世界はまだ続いているのだろうか? 「お父……さんは。帰りたいとお思いですか?」  懐かしさから遠くを視て居た私は、聞かれて隣を見下ろす。見下ろした先では  イリサが両手を膝上で絡ませ、俯いている。私は一呼吸の間を置いては、イリサ  の手に自分の手を乗せ。 「……もうあちらでの役目は終えた。今は此処が私の居るべき場所だよ。」 「!」  俯かせた顔を“バッ”と上げては喜びに溢れた笑顔を魅せてくれる。見惚れる  笑顔を浮かべたイリサは。 「もっと、もっとお話を聞かせて貰えますか?」 「いいよ。そうだなぁ……。私の世界にあった神話でも───」  話をせがむイリサに応え私はVRゲームの世界に落とし込まれた、あの世界  の設定を聞かせる事に。それは様々な神話がベースとなった物だった。  話しをしていると、イリサはその中でも北欧神とギリシャ神話に強い感心を  見せ。せがまれる事に喜びを感じた私が色々と話し。語った物語が一区切り  した頃。 「……。……。」  気が付けばスヤスヤと寝息を立てるイリサの姿。その頭は私の膝上。話の  途中からイリサはうつらうつらとしており、気をやった瞬間を受け止め、  ゆっくりと膝上へ置く事に。だが置いたは良いが。 「(まいった。これじゃ身動きが取れない。)」  起して部屋まで送れば良いのだろうが、こんなに穏やかな様子で眠られては  起こすのが忍びない。だから私はイリサ自らが目を覚ますその時まで、この  穏やかな寝顔に癒やされながら、まったりと待つとしよう。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  結局あの後イリサが目覚める事は無く。私は寝苦しいだろうと思い  起こさぬよう娘の体勢を整えては、朝日が登る今。 「………?」 「おはようイリサ。」 「おはようご───!?」  寝ぼけていた様子のイリサが“ガバッ”と上体を起こし。 「おと、お父さんっ!」  大きく見開いた目で私の膝と顔を交互に見遣ると。 「ごごっご、ごめんなさ───!」 「!!!」  立ち上がろうとしたイリサが蹌踉めき、そう見えた瞬間隙かさず手を  伸ばしイリサの体を抱き寄せる。寝起きは思うように体も動くまい。 「急に動いては危ないよ。」 「……ふぁい。」  胸に顔を埋めるイリサが何時か聞いた事のある返事を返す。私はイリサが  落ち着くまでの間を暫し書斎で過ごし。その後二人で朝の支度済ませ。  珍しく一緒に朝食の準備を行い。そのまま起きて来た皆と食事を取った  後───  ───玄関扉を空けると同時。 「おっと。」  開いた扉から“ドサササ”と雪が中へ雪崩れ込む。 「うわー凄い!」  興味のありげなオディ少年と。 「「さ、寒っ!」」  イリサと少年の後ろに立つリベルテと少女なサキュバスが感想を零す。  これは予想以上に降り切った───いや。 「まだ降ってるのか……。」  開けた扉からひらひらと小さな雪が入り込む。吹雪くのが止んだと  気が付き扉を開けたが、雪が降り止んだ訳では無かったか。であれば  また吹雪く前に急ごう。私は開けた玄関扉から家の方へと振り返り。 「家屋が雪の重みで潰れると一大事なので、吹雪が一旦止んだ今、雪かき  をしたいと思います。」 「「いってらっしゃ~い」」  ハモるリベルテと少女。だがこれは村人総出でする事で、立場的に我が  家に住まう者がそれをしないのはよろしく無い。なので。 「勿論二人にも手伝ってもらう。リベルテはオディとエファと一緒に。  イリサは私と一緒に雪の除雪だ。」 「「はい!」」 「「は~い……。」」  元気の良い二人と、泣き出しそうな顔の二人。生憎こればっかりは慈悲は無い。  そうしてリベルテ達を送り出し、家屋が倒壊しないよう村のあちこちで雪を除  雪する作業が始まる。  私は自宅屋根上の雪を慎重に崩し、時には魔法て溶かしては作業を進め。イリサ  には家の周り、通り道の除雪を頼んでいる。真っ白で厚い層を作る雪をどうにか  し続け、自宅の作業が終わった所で屋根を飛び降り。私は玄関辺りに居たイリサ  へ声を掛ける。 「此処は済んだから、次は他を手伝いに行こう。」 「はい!」  自宅の作業が済んだ私は家を離れ、他の村人の手伝いへ向かう事に。その道中。 『!』 「あ、クロドアが。」 「ん?」  イリサに片手で抱かれていたクロドアが不意に飛ぶ。正に翼を広げ飛んだのだ、  と言ってもそれは余り遠くではなく。 『!』  積もった雪の上に着地───した瞬間クロドアの姿が雪の中へと消える。 「やれやれ。」  野生動物でも雪に燥ぐか。そう思いながら私はイリサに待つよう  手振りで示し。除雪の済んだ道から、済んでいない積まれた雪へと近付き。  少し進んではクロドアが沈んだ場所辺りへ手を突っ込む。 「んん?」  その部分に積まれた雪はやけに柔らかく。そして湿っている様に思えた。  私は抵抗の少ない雪の中を腕を動かしては目的のモノを探し。何かが指先に  触れる。私は触れた物をひっぱり上げる───と同時に背後から。 「あ、クロドア。ダメじゃないですかもう。」 『!!』  背後から声がし、振り向けば何処からか出て来たクロドア。では私が  今正に引き上げたモノは? 雪から取り出したそれへと顔を向ける。 「───」  雪の下から現れたお宝は人の形をしており。 「………。」  それは弱い呼吸を繰り返す。んんん?  見覚えのある人物は、また見覚えのある物を手に抱えていた───
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