第六十二話 除雪作業

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第六十二話 除雪作業

 ───分厚い雲からひらひらと雪が地上へ降り落ち。通り道の為に  脇へと積まれた雪の、その中から人らしきをを引っ張り出した黒の男。  ペットのドラゴンが突然雪へダイブし、沈んだペットを救出しようと  積もった雪に手を突っ込めば。 「………。」  引き上げられたのは人間。それもよく見れば昨日メンヒ村で拾った、あの  ブロンド女性だと分かる。イリサとは違う暗めの金髪に積もった雪を乗せた  女性。吹雪く雪のその下敷きに成っていた彼女だが、冷たい死体かと思い内  心“ドキッ”としたが、弱くも息をしている様子。 「あら? 何故そのヒトが此処に居るのでしょう?」 「……何故だろうな。」  背後から、イリサが体を傾け此方の様子を伺い尋ねてくる。此処に、  この村に居る理由に何故雪に埋まっていたのか知りたい所だ。それと。 「(自作のクリスタルを抱えている理由もな。これのお陰で雪に埋まり  ながらも生きていたのか?)」  ブロンド女性は引っ張り上げた腕とは逆の手にクリスタルを持ち、魔力が  切れかかっているのか弱々しい光を放つそれは、どう見ても私がメンヒ村に  預けてきた品物。メンヒで何があり、彼女が何を知っているのか。それを  この女性から聞き出す必要がありそうだ。であれば。 「放置して凍え死なす訳にはいくまい……。イリサ、一旦家に戻ろう。」 「はい。」  情報を得る前に死なれては困るので、私はイリサと共に一度自宅へ戻る  事に。そして拾った女性を自宅一階の一室。現在少年少女が使用している  部屋のベッドへ寝かせ、何故かがっしりと掴んで放さなかったクリスタルへ  魔力を注ぎ。椅子を手に部屋を出ては、扉のノブを持ち出した椅子の背で  がっしりと固定。  目が覚めた時に自宅を勝手に動き回られても困るからな。まあ窓の方から  外にも出られるだろうが、雪に埋まり衰弱していた彼女がまた寒い外に出る  かは疑問で、出たら出たで構わない。家の中を荒らされないならな。  そうして彼女を閉じ込めた私は再び雪かきを再開する為、イリサと共に自宅を  後に。  女性が目が覚めるまで側に居る事も出来たが、目下家屋の倒壊や人的被害  による資源資産の損失危機。自然の中で生きて行かねば成らないこの村で、  冬と言う厳しい季節に人的被害に住居施設の損失は忌々しき問題だ。故に  女性に構うよりも此方のほうが優先度が高い。そう考え村の問題へ対処する  事にした私は、既にゴブリン達によって雪が退けられている道を進み。道中  雪かきを手伝ったりしながら村の中でも大きな建物の一つ。 「ニコ。」 「ニコさーん。」  煙突が特徴的な建物へと到着。其処では屋根上で何人かのゴブリンが作業を  しており、その中の一人。他のゴブリン達よりも親しいであろう彼へ声を飛  ばす。 「! 親方ぁお嬢ぉ!」  すると彼は屋根から地上に積もった雪へと飛び降り、その姿を雪の中へすっぽり  隠しては。 「待ぁってたゴブ~!」  積もった雪の中から道の方へと飛び出してくる。何とアグレッシブなゴブリン  だろうか。 「……凄いな。」 「そうゴブ凄いゴブ! 退けても退けても雪が積もるゴブよ~!」  厳つい顔で涙ぐみながら言われ、建物を見上げれば雪がどっしりと屋根に  積り。それをゴブリン達が細々と必死に削っている。アレだけの量とも  成れば一気に削ったり落としたりは危険なのだろう。しかしあの速度では  未だ降り下りて来る雪にゴブリン達では勝てそうにない。最初に此処へ手  伝いに寄ったのは正解だったな。  私は隣でクロドアを抱くイリサに待つよう目配せを一つ送り、笑みの返事を  受けっては、掛けられた骨の梯子を登り屋根上へ。 「皆一旦屋根から下りてくれるか?」 「「「了解ゴブ。」」」  登った先で作業中だったゴブリン達へ声を掛け、彼等が屋根を下りて行く。  因みに皆梯子を使って下りている。暫くして屋根上に私だけと成った所で。 「……。」  屋根上、煙突を背にしては魔力を練り上げ。十分な量が溜まったと感じた  瞬間。右腕を振り払いながら。 「マギア・フロガ・ア(発炎)マナ!」  創作魔法を行使。振り払った右腕から炎が扇状に飛び出しては一瞬で  掻き消え、火炎が焼いた場所の雪は綺麗に解け。解け崩れた積り雪が  “ズルズル”と屋根から下へと落ちて行く。屋根上にはまだ幾らか雪が  残ってはいるが。 「これ位なら何とか成るだろう。」  私は残った雪を見ながら呟く。残りを焼いても良いのだが、創作魔法は  例外なく魔力消費が大きく、消費が大きいと疲れるのだ。前々から自分  が持つスキルと、この異世界の魔法。それの魔法使用に対する魔力消費  がチグハグな事には気が付いている。しかし。 「今の所どうする事もなぁ。」  魔力消費の問題に頭を悩ませつつ、私は梯子を下りてイリサの下へと戻る。  するとイリサの足元にはニコを始め作業中だったゴブリンが全員身を身を  寄せ合っており。 「何してるんだ?」 「お嬢の側は温かい気がするゴブ~。」 「「「ゴブゴブ。」」」  尋ね応えたニコの言葉に他の者が頷く。成る程、まあ気の所為ではなく  イリサの周りは本当に温かい。何故なら、イリサには周りを温かくする  クリスタルをポケットに忍ばせているからだ。魔力消費を考えると長時  間の使用には適さない、が。娘に風邪を引かせる訳にはいかないからな。 「屋根の雪は大部分を焼いたから、後は自分達でどうにか出来るな?」 「出来るゴブ。」 「では任せるよ。」 「「ゴブ。」」  そう言うとゴブリン達が作業に戻って行く。一名を除き。 「ニコ。」 「……離れたく無いゴブぅ。」 「はぁ。夕食をうちに食べに来ても良いから今は───」 「了解ゴブッ!」  足早に去って行くニコの後ろ姿を見詰める。 「ニコさんは何時でも元気いっぱいですね。ふふ。」 「そう、だね。」  イリサの呟きに様々な感情が(せめ)ぎ合い。結局出て来たのはそれだけ。  私は魔力消費とは別の意味で疲れながらも。 「此方の方は彼等がよく働いてくれているみたいだし、次は彼等の居住区の  方へ行こうか。」 「分かりました。」  チラリと見渡した周りでは雪を退けて道を作るゴブリンに、元々あった  人間の家々を除雪をする彼等。此方側は手が足りていそうだったので、  私はイリサを連れて村の開拓された場所。ゴブリンの居住区へと向かう───  ───人が作った建物の景色から、天幕やら小屋やらが乱雑に立てられた  景色に変わる場所。ゴブリン達が住まう居住区。  村には元々空き家が幾つかあり、それに最初住んでいたゴブリンも今や殆  どが此方に居を移している。まあ人間の家に住むには色々不便があっただ  ろうからな。なので村の中心よりも此方の方がやや賑やかで。 「ゴブー!」 「ギッギ!」 「これこれ。余り燥ぐでないゴブ。」  村の中心では余り見ない子供ゴブリン達の姿もチラホラ。雪で遊ぶ子供ゴブ  リンに、遊びに付き合うは何処か見覚えのあるゴブリン。とは言え見覚えが  ある程度で気に止める程でもなく、視線を動かし居るはずの人物たちを探す。  すると少し離れた場所、移住区の広場にて。 「……?」 「………!」 「…? ……。」 「…!? ………!」 「………。」  リベルテとコスタスに子供二人。それとオークのヴィクトルの姿を見付けた。  私は彼等に近付き。 「作業は順調そうですね。」 「あら、アンラさんとイリサも此方来たの?」 「はい。お手伝いに来ましたよ、リベルテ。」  声に応えたのはリベルテで、彼女は伸ばした片手にコスタスを掴み上げている。  一体どう言う状況なのだろう。そう思いコスタスを見詰めると彼は此方の視線に  気が付き、少し慌てた様子で。 「いい加減離せゴブ!」 「え? 良いの?」 「こ、こ、此処じゃないゴブ!」  積もった雪の上に落とそうとするリベルテとそれに抗議するコスタス。ふむ?  二人はもっと険悪な感じかと思っていたが……そうでもない、のか? 私が疑問  気に二人を見ていると、リベルテがコスタスを除雪の済んだ地に下ろし。 「此方は順調よ。ヴィクトルが目一杯頑張ってくれてたからね。」  言われてイリサと共にヴィクトルを見遣れば。 「大した事ない。此処は俺が住む場所でもある。」  木のスコップを担ぎ、いつか見た蛮族じみた毛皮を羽織るヴィクトルは、その  下にパツッパツのシャツ姿で。何ともアンバランスな衣装で堂々として見せる。  ゴブリン達の話や普段の彼の言動から知っているが、意外にも義理堅いこの  オークの男らしさには若干の憧憬を感じる。そう言えば彼は住みやすそうな  人間の家屋ではなく此処に住んでいたのだったか。 「だからそれはエファが!」 「知らないわよアタシ。」  私がヴィクトルへ労いの目配せを送る傍ら、オディ少年とサキュバスのエファが  何事か言い合っている。此方も別段険悪と言う雰囲気では無いので放って置くと  しよう。 「あらタニア?」 「ん? 本当だ。久し振りねタニア。」 「イリサ! それにリベルテもゴブ!」  イリサ達の声に気が付き。頷くヴィクトルや、サキュバスにほっぺを引っ張ら  れる少年から顔をそちらへと移し。 「タニア。しっかり休めているか?」 「はい。お陰でゆっくり休めてますゴブ。」 「それは良かった。何か用があれば言ってくれ。」  厳つい顔に笑みらしきを浮かべ頷くタニア。そんなタニアに先程気になった  事を尋ねてみる。私は離れた場所で子供ゴブリン達のお守りをしているゴブ  リンを指差し。 「彼は───」 「父ですゴブか?」 「───そう。君、のお父さんでゴブリンの族長さんだったね。」  通りで見覚えがあるはずだ。彼はゴブリン族族長で、このタニアの父親だ。  ついついその事を忘れ、何故忘れていたかと言えば。 「何故族長さんが子守を?」 「私がアンラさんに頼まれて色々してたら、父のする事が、その。」 「あぁー……。」  と言う事だ。村の中間管理をタニアに頼んでからという物、現族長よりも  族長らしく仕事を熟す彼女にその役割を奪われてしまったのだろう。 「でも最近やる気の抜けてた父も『ゆっくりとした時の中で、次代を見守り慈し  む喜びを知ったゴブ。』って言い出して、それから父は子供たちの面倒を見る  ようになりましたゴブ。今ではああして子供たちと沢山の時間を過ごしてます  ゴブよ。」 「それは、よかったね。」  何だか達観が一周してしまった感じだが、年長者が子供を教え導く事は多い。  そう言った意味では族長であった、じゃない。現族長の彼が子供たちの面倒を  見る事には情操教育的にも言い事だろう。 「ジジは遅いゴブ。」 「ガンバルゴブー!」 「はしゃ、燥ぎ過ぎゴブ、ゴブっ!」  何よりも族長さんも楽しそうだ。ふむ、教育か……。  私は遠くで子供たちと遊ぶ族長から視線を外し。思った事を頭の片隅へと  仕舞い込んでは。 「ヴィクトル。何か手伝える事はあるか?」 「良いのか親方?」 「勿論。一人踏ん反り返る積りは無いからな。」 「分かった。なら───」  ヴィクトルに言われた手伝いをイリサにリベルテ。それとオディ少年と  サキュバスのエファに割り振っては、自らも除雪を手伝う。そうして  各々が作業に動く中で、私もヴィクトルと一緒にゴブリンの居住区を回っ  ては雪をかき集め、一箇所に集めた大量の雪を魔法で解かす等を熟し。 「助かった。これで暫くは大丈夫だ。」 「これだけやって暫くか……。冬は思った以上に厳しいな。」  ヴィクトルと頷き合った後。私達は除雪作業も終わり居住区の広場に  戻る。 「「「「……。」」」」  戻った広場にはイリサをリベルテが後ろから抱き。その抱かれた  イリサが更にエファを腕に抱いては、表情を消したエファがタニ  アを抱くと言う。何だか不可思議な事をしていた。四人がその様に  する側へ近付くとイリサが此方に気が付き。 「お帰りなさいお父さん、ヴィクトルさん。」 「ただいま。私達が一番遅かったみたいだね。」  辺りを見ればコスタスにオディ少年の姿も。彼等は彼等で何やら話し  ている様子。 「でも一番仕事量多かったでしょ? もっと此方に振っても良かっ  たのに。」 「適材適所ですよ。所でそれは一体……?」 「あ、これ? いやイリサの周りが温かいから、こうして皆で暖をね。」  成る程。納得した私は一度空を見上げ、見上げた空には厚い雲が漂い。  周りに吹く風もその強さを増している様子。 「除雪はこのぐらいにそろそろ家に帰ろうか。」 「はい。」 「「やったー!」」  イリサと、ハモるリベルテと少女。私はヴィクトルに挨拶を済ませては  居住区を離れ、途中拾ったニコを加え皆で自宅へ帰る事に───  ───自宅へと帰ってきた私達はそれぞれ自室で着替える事にして、  イリサとリベルテは二階へ。少年少女は一階の自室へ。ニコは私と一緒に  リビングへ向かう。それぞれと分かれリビングでコートを脱いで居た所。 「「誰ーーーー!?」」  一階から叫び声が響き渡る。声の主が少年少女の物だと分かり、其処で  私は思い出す。 「しまった。」  彼等の部屋に閉じ込めた存在。それを思い出した私はリビングを駆け出し  向かう。  閉じ込めた女性が居る、彼等の部屋へと───
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