わっちは”恋”でありんす。

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 時にぬし様、お師匠様、長登屋の皆様方、振袖火事というものはご存じでありましょうか?  そう、寺の小姓に恋いした挙句、病んで死んだ娘の情念ーー遺品の振袖。焼いて供養しようとすれば、真っ赤な炎をまとって江戸の街を包み込み、大火事となった。・・・まるで今のわっちのよう。  ――わっちは、かの情念の娘を羨ましく思いんす。  “赤”は・・・・“恋”の色。  わっちもそんな風に江戸の街を、“恋”で染めたい。  わっちは、“恋”になりたい。  さて、はて。わっちのような重たい布団が飛び上がれるのか、と?  いやなこと。  わっちの血が色濃く染みついたのは、この表の布でありんす。この布の一欠片、残っていれば十分。    さて・・・そろそろ体も大分軽くなってきんした。  ああ、ぬし様も見ておりんすな。そんなに慌てて・・・。  わっちは、“恋”になりんす。  真っ赤な真っ赤な炎となって、そして誰よりも大きな“恋”になって、あのお人を今度こそ飲み込みに行きます。  ここは風上、どうぞ息災に。  ああ、そうでありんす。今度こそ答えておくんなまし。  ぬし様。ぬし様にはわっちが・・・わっちの色がどう見えていんすか??  ―――真っ赤な、真っ赤な、“恋”の色に染まっておりんすか?
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