わっちは布団でありんす。

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 わっちは布団でありんす。吉原の色んな見世でお世話になりんしたが、今は長登屋といわす所にいんす。  長登屋はご存じで?  ああ、わっちをこんな場所に運んだのはぬし様らでありんしたか。何でわっちがこんな屋外の寂れた場所に、ぬし様と二人で居るのかと思いきや・・・。  わっちも元はかの三井越後屋で作られた、木綿わたに絹布の特注布団。出来上がった当初は積夜具として、店先でお披露目までされた程。庶民の煎餅布団とはわけが違います。――重うありんせんでしたかぇ?  ああ、やはり。お疲れ様でありんした。  そんな顔をしないでおくんなまし?  さて―――さて。  それにしても何故わっちが突然こんな寂しいーーお寺、でありんしょうか?――場所に運び込まれたのか、とんと理解が追いつきませぬ。  何やらそこの角の向こうには、他にも人がいらっしゃる様子。  いえ、話し声が聞こえんす。それにこれは――パチパチと・・・。  ―――はぁ・・・?  わっちが何者であるか、と?  先程も申しんした。わっちは見ての通りの布団でありんす。遊郭の醍醐味、夜の仕事に使われる真っ赤な真っ赤な布団でありんす。  さても、さても。今一つ納得されておられない様子。  ならば少しだけ、わっちについて語りんしょう。
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