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八柳屋さんの布団でありんす。
次にわっちを買ったのは八柳屋さん。
八柳屋さんはこれまでわっちがいた見世の中では格が落ちる、中見世と呼ばれる見世でありんした。
ああ、見世の格は張見世の格子の形で見分けが付きんすよ。
張見世というのは、遊女がその中に並んで、客が今晩のお相手を物色する場所の事でありんす。
その張見世を囲う格子を籬と呼びんすが・・・
籬が上までしっかり閉まっているのを総籬。――最上級の上見世。
一部が胸の辺りまで開いているのを半籬―――中堅の中見世。
格子が全て半分開いているのが、小格子―――格安の小見世。
まあ、更に下を見ればキリがありんせんが・・・今度じっくり観察でもしてみてくんなまし。――うふふ。
八柳屋さんがわっちを買ってくださったのも、やはりわっちのこの鮮やかな“赤”に惹かれたからでありんした。
見世の格こそ落ちたものの、わっちの仕事は変わりんせん。わっちはそこでも幾人かの娘さんの手伝いをさせて頂きんした。
ただ、格が落ちたせいか布団の貸し借りが娘さんの間で行われていて・・・はい、わっちは白木屋さんより多くの娘さんの間を渡り歩きんした。
皆、わっちの“赤”を羨ましがって、それは大変な人気でありんす。
その頃からでありんす。
わっちの上で仕事をすると上手くいく。
わっちの上で寝ると娘が美しく見える。
おぼこ娘ですら、客あしらいが上手くなる。
―――そんな噂が出始めたのは。
娘さん達にも、見世の店主にも随分と有難がれんした。
さて、この店の店主。・・・八柳屋さんは所謂吝嗇家と言いんすか・・・まあ、お金にがめついお方でありんした。
わっちを縁起物と見て・・・近在の見世に有料で貸し出しを始めたのでありんす。
―――うふふ、うふ。
そりゃあ、もう。周りも最初は半信半疑でありんしたが・・・
皆、まずわっちの“赤”の鮮やかさに魅せられて・・・次いで、噂の効果の程に驚きんした。
やれ、あの気難しい客が満足して帰っていった。
やれ、初物入りしたばかりの娘がどこそこの若旦那を射止めた。
気が付けば、床上手になれる布団として、吉原では有名になっていんした。
きっとこの“赤”が特別なのだと・・・いやもう、わっちは大層な人気となりんした。
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