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そう・・・そしてあの日。あのお人がついに千雪の元に来たのでありんす。
あのお人。わっちが恋うて恋うて身を切ってまでも恋うたあのお人。
ずっと、ずっと探していた。吉原にいれば、娘さん達を手伝っていれば、きっとまたわっちの前に現れるだろうと信じていた・・・あのお人。
そう、千雪ならば。あのお人の好みにぴったりはまるあの娘さんならば――!
――うふふ、ふふ・・・・。
あの日、あの晩。千雪がわっちの元にあのお人を連れて来んした。あのお人は疑いもせず、脂下がった顔で千雪に誘われて・・・そうして部屋に敷かれたわっちを見たのでありんす。
その時のあのお人の顔といったら。あのお人はわっちを見て、叫んだのありんす。
―――「何だ、この汚らしい布団はっ!」
―――「気味が悪い色ではないか」
―――「赤茶けて・・・まるで、血がくすんだかのような」
うふ、うふふふふふふ。
ねえ、ぬし様。ぬし様にはわっちの色がどう見えていんすか?
――ねえっ?
誰も彼もがわっちの色鮮やかだと。何と美しい“赤”であるのかと。わっちの”恋”を褒めそやした。
なのにあのお人は、ちゃあんとわっち自身も見つけてくれたのでありんす。
後の事は・・・そう、ぬし様は知っておりんすね?
騒ぎを聞きつけて集まってきた店の者達は、腹を刺されたあのお人と、馬乗りになった千雪をみたのでありんしょう、
ええ、わっちの上で。
さらに後の事は、わっちにも解りんせん。気が付いたらここにぬし様とおりんした。
ああ、そうでありんしたか。
あの時、ぬし様のお師匠様もあの店にいんしたか。
成程、お師匠様は流れの調伏師でいらっしゃる?
ぬし様はお付きとして階下に。そして現場を見られ、お師匠様がわっちの正体に気づかれたのでありんすな。
いや、元々奇妙な縁起物とされたわっちに目をつけていなさった、と。
それでわっちについて、調べておりなんしたか。――それは、それは。
わっちの意識が途中で切れているのは、そのお師匠様の力によるものだ・・・と。
そんな方が丁度江戸に流れていなさったとは・・・わっちにとっては間の悪い話でありんすなぁ。
え?
千雪の事が気にならないのか、と。わっちに利用された挙句に殺人犯にされかけたあの子。
―――――――――さぁ。
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